第29回東京国際映画祭で10月26日、日本映画監督協会新人賞の第56回受賞者となった松永大司監督が、「トイレのピエタ」の上映後、TOHOシネマズ六本木で批評家のマギー・リー氏とティーチインを行った。
「トイレのピエタ」は、漫画家・手塚治虫さんが死の直前までつづっていた病床日記に着想を得た、松永監督初の長編劇映画。ロックバンド「RADWIMPS」やソロ活動「illion」で活躍する野田洋次郎を主演に迎え、余命3カ月を宣告された画家志望の青年・宏(野田)と孤独な女子高生・真衣(杉咲花)の交流を描いた。
「公開から1年以上も経過した作品をスクリーンで見てもらえるのは嬉しい」と切り出した松永監督。「ピュ~ぴる」「GOSPEL」といったドキュメンタリー作品を経て、初めて劇映画を手掛けた点を問われると、「ドキュメンタリーは、ベストショットを逃してもリテイクが出来ないということにストレスを感じることがありました。劇映画にはその心配がない代わりに、役者の演技によってストレスが生じる場合がありますが、『トイレのピエタ』の撮影では一切感じませんでしたね」と撮影当時を振り返った。
主演の野田や、宏を支える横田役に扮したリリー・フランキーといった“本業が俳優ではないアーティスト”への演出に関しては、「野田さんには、宏の職業である窓ふきの動作だけ覚えてもらって、演技の勉強はあえてしてもらいませんでした。リリーさんには“横田が言わない”と感じるセリフがあれば省略してもらうことも。登場人物が作品の中できちんと“生きている”というイメージを大切にしたかったんです」と説明。また、「自分も窓ふきのアルバイトをやっていたことがあって、登場人物の名前やセリフは、一緒に働いていた実在の人物からインスパイアされたもの」といった秘話も飛び出した。
17年には、「THE YELLOW MONKEY」の活動を追ったドキュメンタリー映画の公開が控えている松永監督。「『トイレのピエタ』に続く、劇映画第2弾のシナリオも現在執筆中です」と今後の展望も語り、日本映画業界の次代を担う者としての積極的な姿勢を示した。
第29回東京国際映画祭は、11月3日まで東京・六本木ヒルズほかで開催。