フランソワ・トリュフォーによるアルフレッド・ヒッチコックへのインタビューを収録した書籍を題材にしたドキュメンタリー「ヒッチコック/トリュフォー」の公開を記念し、ケント・ジョーンズ監督が来日。10月28日、篠崎誠監督と共にアンスティチュ・フランセ東京で行われた東京国際映画祭との提携イベント「ヒッチコックからはじまる映画史」での「マーニー」上映後に対談した。
「マーニー」は、幼少期のトラウマから盗みをくりかえしてしまう女性マーニーと、彼女を救い出そうとするマークの心理的葛藤をミステリー仕立てに描いたドラマ。マーニー役は「鳥」にも出演したティッピ・ヘドレン。マーク役はショーン・コネリー。
ジョーンズ監督は、「マーニーは自分自身が嫌いな主人公。様々なリアリティが欠如していて、それがマッチしている。ショーン・コネリーがフィラデルフィアのビジネスマンを演じているということもあり得ないが、そういうことのすべてが問題にならない」といい、「ショーン・コネリーが演じるマークもマーニーと同じように病んでいる存在に、もっと過激に描かれるはずだった」と裏話を明かす。そして「(劇中でも)良心的なことをやっているようだが、よく考えると狂っている」と解説。「ヒッチコックは女性の映画をたくさん作っているが、これほどまずい人物についての映画は初めて。なぜこの作品が作られたのがミステリー」「ぎこちなく、謎が多く、圧倒的に美しい。見るたびに好きなる映画」と作品への思い入れを語った。
篠崎監督は「リアルなものと人工的なものが拮抗している作品」と評し、「マーニーがオフィスのトイレにいるシーンでは、FIXでのロングテークが1分ぐらいずっと続く。掃除婦が出てくるところまで、リアリティがあった。(反対に)ラストの船着き場のシーンはおとぎ話のよう」と説明する。
篠崎監督から一番好きなヒッチコックの作品を問われたジョーンズ監督は、「6,7本ありますが」と前置きしたうえで「汚名」(1946)を挙げる。「シーンよりはひとつの完成された作品に心動かされます。そういった意味で、私が最も心を動かされる作家は小津安二郎です。ヒッチコックも小津も映画産業の中で働き、(キャリアの)最初から最後まで素晴らしい映画を作ってきた。二人はほぼ同じ時代を生きています」と話した。
ジョーンズ監督の「ヒッチコック/トリュフォー」は、「映画の教科書」として長年にわたって読み継がれている「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材にし、1962年当時のヒッチコックとトリュフォーの貴重な音声テープをはじめ、ヒッチコックを敬愛する10人の名監督たちにインタビューを敢行し、巨匠の映画術を新たな視点でひも解く。
ウェス・アンダーソンが登場している理由をたずねられ、「映画同士が似ているから選んだわけではないのです。関心を持ったのは、映画を作ることはどういうことかに強い関心を持っている人、映画史に興味持っている人、よく研究しているであろうという人を選びました」と説明する。アンダーソンに「グランド・ブダペスト・ホテル」の美術館のシーンが、ヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」のオマージュのように見えると指摘すると、アンダーソンは「オマージュとは言いません。まったくの贋作です」と答えたというエピソードを披露した。
そのほか、アルノー・デプレシャンが「エスター・カーン めざめの時」のインスピレーションを得るために見たのが「マーニー」だったことや、デビッド・フィンチャーが、「めまい」について複雑な見方を提示したという逸話を明かし、「フィンチャーは、『めまい』を見て、女性の立場に立って描くことが面白いと言っていました。私はその会話の後に彼の『ゴーン・ガール』を見て、『めまい』のキム・ノバク側からやろうと思った作品なのかと思いました」と話した。
「ヒッチコック/トリュフォー」は12月10日全国公開。