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2016.10.31 [イベントレポート]
「人と人との関係って難しいです」日本映画スプラッシュ『ハローグッバイ』-10/27(木):Q&A

ハロー、グッバイ

©2016 TIFF

 
10/27(木)、日本映画スプラッシュ『ハローグッバイ』の上映後、菊地健雄監督をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 

司会:改めてご覧になって、今どのような心境でしょうか。
 
菊地健雄監督(以下、監督):そうですね。感無量なところもありつつ、まだ皆さんの反応がなんともあれなので、ドキドキしつつというところではあるのですが、終わって拍手をいただけたので、とりあえずはほっとしている感じですかね。
 
司会:成り立ちのところからもう一度お伺いしたいのですが、脚本の方がいらっしゃいますけれども、監督は脚本段階から一緒に参加されているわけですよね。
 
監督:そうですね。最初はまず僕に声をかけていただいて、原案というか、コアになる部分をプロデューサーと一緒に、こういう感じでというところで、脚本を書いていただいた加藤綾子さんに入っていただいて、そこからは割と加藤さん主導でお話を組み上げていくというような形でした。結構最初のアイデアの部分もいろいろ悩んだのですが、加藤さんが参加されてから今のこの形に一気になっていったっていう感じですかね。
 
司会:曲が重要なファクターになるわけですけれども、脚本を書いている段階ではまだメロディー自体は存在していなかったわけですよね。その部分はどうやって脚本を書いたのかなと少し思ったのですけれども、どうなんでしょうか。
 
監督:もともとかなり早い段階から、自分と同じくらいのタイミングで、音楽に渡辺シュンスケさんが参加されるということは決まっていましたので。シュンスケさんのライブなどでも“Schroeder-Headz”(渡辺シュンスケさんのソロプロジェクト)のものを聞かせていただくなかで、なんとなくこんな感じなのかなというのはありつつも、実際脚本ができた後に読んでいただいて、自由に作っていただいたなかで、こうじゃないか、ああじゃないかという議論を経てこうなるという感じでした。
 
司会:監督からはちょっと違うみたいなこともあったのですか?
 
監督:多少はそうですね。今使っているものと少しテイストの違うものもいくつか作曲していただいたりもしましたが、最終的にこの形がいいのではないかというところに落ち着きました。鼻歌でやりたいなと思っていたアイデアがあった中で、僕の友人で今日会場にも来ている瀬田なつきの『5windows』という作品が出まして、そこでかなり印象的に鼻唄が使われていたので、ちょっとネタ被りするかなという恐怖もありつつ、それとは違う何かを探していました。音楽がそういう形で映画の中で使われることが僕自身好きなので、何か自分なりの形ができないかなというのはだいぶ試行錯誤しましたね。
 
司会:そういった音楽を決めていくなかで、やはり二人のヒロインが非常に印象的で、お二人を決められたいきさつというのも少しお伺いしてもよろしいですか。
 
監督:萩原みのりさんに関しては、助監督時代に2、3度、ご一緒させていただいていたので、その時から非常に印象に残っていました。彼女が女優を始めたくらいのタイミングで、結構重要な役を演じていただいた『ルームメイト』という作品があるのですけれども、その時から自分の中ではいつかというのがあったのです。そういう意味では、みのりちゃんは早い段階から自分の中にはありました。久保田さんに関しては、今までご一緒したことがなくて、なにかできる方がいないかなといろいろ探していたなかで、瞳というか、目の持っている力みたいなものがすごく印象的でしたので、今回ぜひ、という形になりました。女優さんとしても、なんとなく僕の中で最初におふたりにお会いしたときから、真逆なふたりがいいかなっていうのがあったので、そういう部分ですごく対照的なふたりで面白かったなというのがあります。
 
司会:荻原さんが「はづき」というのはもう確信していて、キャスティングで迷った部分はなかったのですか。
 
監督:正直言うと、ありましたね。ちょっと悩んだ部分もあって、実は逆もありだったかなというのはキャスティングの段階で、ちょっと思ったりもしたんですけれども。結果これでよかったというところは、現場に入ってから確信に変わっていくという感じでしたけれども。でも、もしかしたら逆の役で演じても面白かったかなと再度思ったりもしますが。(笑)
 
司会:私が拝見した時がまだ『ハローグッバイ』というタイトルになる前の『友達未満』という仮タイトルになっていまして、友達じゃなかった人たちが友達になりそうなのに、友達の手前というところで終わるというのが実に絶妙だなと思ったのですが、この年代の友達関係に対する、例えば「私、○○さんの味方だからね」っていう、少し気持ち悪いセリフが何度か出てきたりとか、そういう友達関係の微妙な在り方というところは、監督は興味を持たれていたところなんですか。
 
監督:そうですね、割と僕も友達が多いと思われがちなのですが、内心、結構難しいなと思うところもあるんですよね。あんまり言うと、友達から「あれ、そうじゃないんだ」って思われるので怖いなって思うのもあるんですけど。人と人との関係って難しいですし、言ってみれば、映画を制作するうえでも、映画ってやっぱり集団作業になっているので、そういう人間関係の綾みたいなものはすごく映画になるんじゃないかなとは思っていましたし、この企画を立ち上げたかなり早い段階で、若い役者さんとか、それこそ同じ現役の高校生の子たちとかに話を聞くと、友達の在り方に悩んでいるという声がすごく多くて。『ディアーディアー』を撮った後にある大学で講義をする機会があって、好きなものを撮るという課題で生徒たちに出した時も、その子たちが大学1年生で、ついこの間まで高校生だった子たちから友達の在り方について、というようなネタがすごく多かったんですね。友人関係っていうのは割と普遍的だなとも思いますし。そういう意味でもいつか撮れたら面白いかなというのはありました。
 
司会:普遍的ではあるんですけれども、僕の世代から見ると、僕らの時は携帯もないですし、友達って単純だった気がしたんですけど、今は携帯とかで友達のレスがどうだとかっていうところで、友達の在り方っていうのが本当に難しい時代になっているのだろうなっていうのもやっぱり菊地監督の作品を見て感じるところはとてもありました。
 
監督:やっぱり、事件とかもね、広島であった女の子が殺される事件とかも、見ず知らずの人がLINEとかでつながっていて、それで一人の命が亡くなるくらいになってしまうような。あれも友達だったみたいな言われ方もしていたりするなかで、でも本当になんなんだろうっていうか、ちょっとやっぱり僕もそこって理解できない部分がありますね。もちろん、今回映画の中で描かれた、そういう女子高生たちの日常って、僕は実際男子校育ちなので、自分の中で最も遠いところにあるものかなとも思うんですが、でもだからこそ映画にしていくことっていうのが面白かったとも言いますか。その辺は脚本の加藤さんだったり、主演ふたりにも助けられましたし、面白かったですね、そういう意味では。
 
司会:主演ふたりの関係性が本当に絶妙なのですけれども。映画祭のクロージングで『聖の青春』という映画をやるんですけれども、あの作品で松山ケンイチさんは羽生さんを演じる東出昌大さんとライバルなので、撮影中一回も口をきかなかったって言っていたんですね。
すごいなと思っていたんですけど、この作品の場合、おふたりをこういう関係性に置くためにどういうような状況を用意なさったとか、準備をしたとか教えていただけますか。

 
監督:それは最初僕自身が仕込んだというわけではなくて、それぞれ準備段階からコミュニケーションをとっていったんですね。「どうする?」なんて話を。3人でというよりは、それぞれと話をしていきました。はづきを演じたみのりちゃんと話して、一方で、あおいを演じた久保田紗友ちゃんと話したりして。ふたりも最初からそれは意識していましたが、撮影自体は8日ほどで撮ったものなので短い期間ですし、迷ってはいました。先に友情関係の一歩手前までいってから、逆によそよそしい感じを作るほうが簡単ではないかと思いつつ、本人たちに委ねたところもあって。
 
司会:おふたりはもともと面識はなかったんですか?
 
監督:同じ事務所ではあったので、もちろん面識がありましたが、共演したりとか仲が良かったわけではなくて、ただやっぱり『聖の青春』の場合と同じようにふたりが選んだのは、最初は距離を置くということで、僕から見ても「意識して距離感作ってるな」というのがありましたね。ただ、現場に入ってからは8日間しかないので、「このままずっと探っていると終わっちゃうよ」という話を僕からして、現場に入ってからは仲良くしてと言いました。控室なども一緒になるので。そんなに僕らの映画に潤沢な予算ないですから、それぞれの控室を用意できるはずもなく、当然控室も一緒だったりすると、見る間に、彼女たちの世代ってすごいなと思うんですけど、あっという間に仲良くなっていくんですよね。そういう中でのふたりの関係の足し引きといいますか、もっと言うと、周りにいる同世代の岡本夏美ちゃんだったり小笠原海くんだったり、望月瑠奈ちゃんとか松永ミチルちゃんとか、周りもその雰囲気を後押しするかのように、非常に普段は仲いいんですけども、芝居に入ると「すごいな、怖いな」というか(笑)。ほんとにこの映画の中で起こっているようなことが、監督をしている僕自身が「やっぱり若い人のコミュニケーション力すごいな」ということを思っていました。小笠原海くんはひとりだけ男の子ということもあり、周りの女の子からすごくいじられたりしていましたよ。でもそれはそれで、彼がある種みんなをまとめる力になっていたし、そのへんの配役と本人たちとキャラクターが、ほんとにキャスティングがよかったといいますか、絶妙な感じでこの世界観を作り上げていただいたっていう感じはします。
 
Q:なぜ3人なのでしょう?『ディアーディアー』の時はダメダメ三兄弟だったんですよね。孤独を表現する時、なぜ3人なのでしょうか。
 
監督:なるほど。深い質問ですね。
お話を作っている段階では、それほど意識していなくて、それこそ劇中のピアノを聴いて、手紙を読んだ後の高台から街を見下ろす時に現場で騒然となって。というのは、スタッフもほぼ『ディアーディアー』の時と同じ。撮影、録音、衣装、メイクのスタッフが一緒で。そこの画作りをしていたら、「あれ、これどっかで見たことあるぞ」と、「やばい」みたいな。そこで、はじめて僕もドキッとしちゃいまして。
ただ、自分でも無意識でやったことだと思いつつも、ドラマを作る時に2人だけだと、価値観が対立したり、それぞれの葛藤がある時に、もう1個入ると、上手く回転していくといいますか、話を進めるための推進力になるというか。2人だと足りなくて、そこにもう1人入ることで、一つの道筋ができるような感覚が無意識にありました。脚本を作られた加藤さんとそのあたりも議論しつつもなんですけど。
 
Q:今回のロケーションというか、空間の配置が素晴らしかったです。階段を上下することと、関係性が変わっていくこと、物語が変わっていくことというのは、いつの段階でイメージがあったのですか。
 
監督:最初、おばあちゃんと出会う階段、あおいの通学路になっている階段があるのですが、台本では坂道になっていたのです。スタッフが入ってロケハンをしていくなかで、準備稿で坂道と書いていたのですが、ロケハンをしたら、いい階段が見つかって。まず物語のメインであるおばあさんと出会う、上るとそこにはおばあさんの家があって。本当にこんな関係のところがあるのかしらと、僕自身、半信半疑だったのですが、制作の方に「できたら場所を飛ばさずに階段を上がったらそこに家があるみたいなロケーションが欲しいです」とわがままを言っていたら、制作担当の熊谷さんがいろんなところを当たってくれて、あそこのおばあさんのお家も実際に住んでいらっしゃる方がいるのですが、撮影にも快く協力してくれることになったのです。あそこが出てきたことで、階段を決める時に、あの階段を登場人物が上がることとか下がることで何かドラマが動くような、そういうものにしたいと言ってたんですね。たまたまピアノを弾くところが見つかったり、学校は結構早い段階で見つかっていたんですけど、それこそプロデューサーと脚本家の母校だったりして。そこを見せていただいた時に、オープニングでタイトルが出るところで、外側から階段を上っていくところが撮れるという面白さもあったりしました。これも階段だなって。
『ディアーディアー』の時はスタンダードサイズで、撮影の佐々木靖之とは、奥行きで勝負しようと、人の動かしとか演出しているのですが、今回は階段を使った上下だなと、わりと準備をしながら固まっていった感じです。
 
Q:全部ロケーションは足利ですか? 撮影はどちらでされたのでしょうか?
 
監督:今回は実は足利は1ヶ所だけあって、あおいちゃんが住んでいるマンションの中です。中なので全然足利じゃなくてもよかったんですけど、たまたま足利で見つかっちゃって。
今回のテーマとしては、1本目は地元の田舎感だったので、今回はもうちょっと都心に近づけるというか、東京郊外くらいな、あんまり田舎じゃなく。どちらかというと人の孤独もテーマになってくるので、都市のほうが良いよねという話がありました。設定的には川崎とか登戸とか多摩のあたりの感じをイメージして、こういうロケーションにしました。
 
Q:渡辺シュンスケさんに曲を作ってもらうことは、かなり早い段階で決まっていたということなのですが、初めて役者をされるシュンスケさんにお願いする経緯は何かあったのでしょうか。
 
監督:これは明確で、手紙を読むところで、ちゃんと弾けることが必要でした。よく練習すれば、そんなにピアノを弾けない人でも弾いている風に撮ることはできるんですね。ただ、今回のこの映画では、鼻歌から、実際なんでこの鼻歌を歌っていたのか、ちゃんと弾いているところを見せたいというのが非常に強くあったのです。シュンスケさんには、ライブを拝見したときに初めてお会いしたのですが、弾いているお姿、ライブでピアノを弾かれている姿が圧倒的というか、すごく良いなあと思ったんです。この説得力を映画に持ち込まない手はないなというところで、今回はぜひという形でしたね。
 
Q:渡辺さんは演技に対する不安はおありだったのですか。
 
監督:ご本人はすごく緊張されていて、「大丈夫ですかね?」と、心配もされていたのですが、僕からは普段のままいてもらうだけでいいんですよと。それだけでした。ちょっとお芝居をし過ぎちゃうところを「いや、そんなにしなくて良いです」みたいなこともありましたよ。「いていただけるだけで」という感じで。ただ結構リハーサルも何度かさせていただいたんですけど、お芝居を固めて、盛り上げていくような感じでした。何回も繰り返すというよりは、そこにいるためにしたいく作業というか。人ってカメラを向けられると、スイッチが入るというか、緊張してしまうというか、僕自身、出ろと言われるとすごい緊張してしまうんですよね。そこに慣れてもらうためのトレーニングを行いましたね。ライブだとステージと客席で、関係なくできていることなので、それが単純にカメラになるだけなんですよっていう感じです。それに慣れてもらうためのリハーサルをして、作品の中で見ていただいた通り、すごく自然にそこにいていただくことができました。
 
司会:ナチュラルな存在感、すばらしかったです。ありがとうございます。
最後に一言いただけたらと思います。

 
監督:いかがだったでしょうか。〈拍手〉
本当にこういう日本で一番有名で大きな映画祭でお披露目させていただいて、こうしてたくさんの人に観ていただけたことが、まずは第一歩として、ようやくこの映画にとってのスタートラインに立てたかなという思いでおります。
ただ、この映画は実はまだ公開とか一般上映に関しては、これからまだ詰めていくようになりますので、もし観ていただいて、いいことだけじゃなくてもいいと思います、ご批判とかも含めて、何かこの映画を観て、感じたことなどを周りの方にお話していただいたりとか。もしTwitterとかFacebookとかやられている方がいらっしゃいましたら、そういったところで発言していただけることで、この映画はより多くの人に届けられるんじゃないかなと思います。
撮ったのが今年の7月なので、結構な速度でここまで来たので、僕自身がまだ実感が追いついていないところが正直あったりするのですが、ただやはり本当に観ていただいた通りで、すばらしいキャストとすばらしいスタッフたちの力で、僕としてはすごくいい作品になったと手ごたえを感じていますので、ぜひこの映画をもっともっと遠くまで届けるための協力をしていただけると非常にありがたいです。
本日は本当にどうもありがとうございました。

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