フランソワ・トリュフォーによるアルフレッド・ヒッチコックへの歴史的インタビューが、現代を代表する監督たちによって語られるドキュメンタリー「ヒッチコック/トリュフォー」が10月29日、第29回東京国際映画祭の特別上映作品として上映され、ケント・ジョーンズ監督と出演者として名を連ねる黒沢清監督が、TOHOシネマズ六本木ヒルズでのトークショーに出席した。
“映画の教科書”として知られる書籍「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」に収録されたトリュフォーによるヒッチコックのインタビューは、1962年に敢行されたもの。本作は、当時の音声テープと、10人の映画作家のインタビューを交え、ヒッチコックの映画術をひも解く。
初来日となったジョーンズ監督は、黒沢監督のほか、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャーら、インタビューを依頼した10人の映画作家の人選について、「題材への興味は大前提だが、ヒッチコックを賛美するだけの人は必要としていなかった。本作の核には『映画を作るとはどういうことか?』という問いがある。ヒッチコック、トリュフォーと同じく、作り手であるという点は重視しました」と説明した。
ジョーンズ監督の発言を受けて、黒沢監督は「腑に落ちた」と一言。「『この人がヒッチコック好きなの?』と、意外な印象を抱く監督も出演されていますよね。この作品は、自分を含めた映画の作り手に関すること、そして映画の歴史も内包している。映画の全てが込められていると思います」と語った。
「どのシーンも本当に面白いのですが…」と前置きした黒沢監督は、「俳優への演出に関して、ヒッチコックとトリュフォーの意見が対立しますよね。極端に解釈するとして、確固たるスタイルを持つヒッチコックと、即興性や自由度を大切にするトリュフォー。これからの映画はどちらの方向に進めばいいと思いますか?」と質問を投げかけると、ジョーンズ監督が「スコセッシ監督が『現代の映画では“感情の揺れ”を俳優に担わせる部分が増えている』という興味深いコメントをしています。ヒッチコックが映画製作をしにくくなった原因のひとつでしょう。黒沢監督の作品に関して答えるなら、絶妙なポジションを築いていると思いますよ。俳優も存在感があって、作品そのものの美的感覚も優れている」と回答。黒沢監督は「ありがとうございます。恐縮です」と照れ笑いを浮かべていた。
「ヒッチコック/トリュフォー」は12月10日から、新宿シネマカリテほか全国で順次公開。
第29回東京国際映画祭は、11月3日まで開催される。