Close
2016.10.31 [インタビュー]
フィリピンの人気監督が実際に起こったトランスジェンダー殺害事件を映画化するに至った理由 『ダイ・ビューティフル』
ラナ、パオロ  
美しく生きることを懸命に貫きながら、急死したトランスジェンダー、トリシャのおかしくも哀しい軌跡を、巧みなフラッシュバックで浮かび上がらせる。監督のジュン・ロブレス・ラナは、第25回東京国際映画祭に「ブワカワ」、第26回東京国際映画祭に「ある理髪師の物語」を出品。フィリピンで最も人気の高い監督のひとりである。主演のパオロ・バレステロスはテレビのバラエティ番組のホスト、メークアップアーティストとして知られている。
 
──本作品が誕生するきっかけから伺います。
 
ジュン・ロブレス・ラナ(以下、ラナ監督):原案は、ある殺人事件がきっかけとなりました。2014年にフィリピンのトランスジェンダーが殺されたジェニファー・ロード事件です。事件後、いろいろな人がソーシャルメディアで「トランスジェンダーだから死んであたりまえだ」などという反応をしたのです。驚くと同時に悲しくなった私は、こういう人々の理解を深める作品を作りたいと考えました。
 
──この企画をどのように進められましたか。
 
ラナ監督:その2014年に資金集めのフォーラムに原案を出し、そこから脚本を作り始めました。
 
──監督は原案にクレジットされています。自ら脚本を書こうと思われなかったのですか。
 
ラナ監督:フィリピンで著名な脚本家のロディ・ベラが引き受けて、脚本の第1稿を書いてくれたからです。彼の構想が、時間軸が一方向に進むのではなく、過去と現在が交錯する展開で非常に面白かった。もちろん、書き直しには私も参加しています。
 
――主演にパオロ・バレステロスを選ばれましたが、その経緯をお聞かせください。
 
ラナ監督:脚本が出来上がった時点でパオロに本読みを頼みました。「彼しかいない!」と思わせるほど素晴らしかったのですが、パオロは毎日放映されるテレビ番組のホストをしていたので、スケジュールがあわなかったのです。番組に休みをもらって撮影をすることができましたが、完成に2年ほどかかりました。

――バレステロスさんは監督からオファーがきたとき、どのように感じられましたか?
 
パオロ・バレステロス(以下、バレステロス):とにかく全力投球しかないと考えました。主人公のトリシャは、タイトルの「ダイ・ビューティフル」のように、美しく死にたい、死んだ後も美しくいたいというのが望みでしたが、彼女は美しく「生きた」のだと思います。彼女は母親だったし、恋人、妻でもあった。友情にもあつい「美しい人生」を全うしました。そこに強く共感すると同時に、彼女の心の「痛み」を強く感じました。肉体的にもテープでウエストをひきしめたり、ブラジャーなどで豊胸したりと「痛み」だらけの撮影でしたね(笑)。
 
──それにしても美しいメイクアップでした。ご自身でされたのですか。
 
バレステロス:そうです。私の曾祖父はフィリピンの国宝といわれる画家で、亡くなった父もニューヨークで画家をやっていました。私は画家ではないですが、顔をキャンバスにして絵を描いているということですね。
 
──演出面で苦労されたことは何でしたか。
 
ラナ監督:トランスジェンダーを演じた俳優たちは全員ストレートの人たちでした。「女性」であるトランスジェンダーの気持ち、痛みを演技に引き出す点で難しい面もありましたが、いくつものパターン、多様なバージョンを撮ることで対応しました。フィリピンではゲイはうるさくて派手というような描き方をしますので、誇張せずリアル感を失わないように神経を使いました。
 
──監督はこれまでいろいろな作品を手掛けられていますが、この作品は特別な位置づけをされているのでしょうか。
 
ラナ監督:私は、興行性の高い作品と個人的な思いの作品を、並行して手掛けています。この作品は個人的な作品の範疇に入ります。個人的な作品では新しい手法、実験的な手法を取り入れることにしていて、前作は2時間を全てワンカットで撮り、この作品は時系列を複雑にしてみました。興行性の高い作品は、ストーリーはスタジオ側から提供されるのが大半です。もちろん、私が気に入らなければ撮りませんが、多くの観客に受ける方程式が存在します。そうした作品をつくることで、本当につくりたい個人的な映画の資金を作ることができます。
 
──監督の次の新しい試みは何ですか。
 
ラナ監督:映画監督を始めた頃は、いろいろな映画作りのルールを守っていたのですが、今はストーリーを語るうえで、そのストーリーに合わせた語り口を選び出すことが非常に大事だと思うようになりました。
 
──今、フィリピンで公開している監督の商業的な作品はどんな内容ですか。
 
ラナ監督:タイトルは原題“BAKIT LAHAT NG GWAPO MAY BOYFRIEND?!”で、日本語に訳すと「どうしてハンサムな男はみんな彼氏がいるのか?」というコメディです。主役のひとりをまたパオロに頼みました。
 
(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)  
 
eiga.com
会期中のニュース
2016年10月25日 - 11月3日
23 24 25 26 27 28 29
30 31 1 2 3 4 5
新着ニュース
オフィシャルパートナー