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2016.10.31 [インタビュー]
日本の戯曲が原案の香港映画 監督&2人の俳優が語り尽くす 『シェッド・スキン・パパ』
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こんな座組が実現するとは!? と思った香港映画ファンの声が聞こえそうな作品「シェッド・スキン・パパ」。80年代から香港映画界を支えてきたフランシス・ン、そして現代香港映画界のトップスターであるルイス・クーがW主演で父子を演じた本作は、ロイ・シートウ監督自身が手掛けた同名舞台劇の映画化。じつは第50回岸田國士戯曲賞を受賞した佃典彦の舞台劇「ぬけがら」がこの戯曲のオリジナルで、日本人らしい曖昧な人間関係をコミカルかつエモーショナルに描き出す。そこで監督、フランシス・ン、ルイス・クーの3人に、本作の裏側を聞いた。
 
ロイ・シートウ監督(以下、シートウ監督):私の友達で、東京大学で演劇を学んだアンソン・ラムくんが、香港話劇團にピッタリの作品だと推薦してくれたのをきっかけに、佃さんと本作を知りました。実際、非常に面白いストーリーだったので、早速上演して良い反響を得ました。その舞台を見た映画関係者が、これを映画化すると面白いのでは、と提案してくれたことが本作の第一歩となったんです。
 
うだつのあがらない中年男の主人公は、母を失うとともに老年性アルツハイマー症の父の世話をすることに。父は何をするにも助けが必要で、主人公の男にとっては重荷になっていた。そんなある日、父が突然脱皮を始め、そのたびに10歳ずつ若返っていく…というストーリー。おおまかなプロットはオリジナル版と同じだが、主人公を郵便局員から映画監督にしたり、戦中に戦闘機乗りだった父の機種を変えていたり、と細かな設定は香港文化にのっとって変更している。
 
シートウ監督:じつはオリジナル版の郵便局員という設定は、おそらく香港ではピンとこないと感じていたんです。佃さんの親子関係が投影されている作品なので、では私が映画化するにあたっては、私が抱いていた夢だった映画監督にすればやりやすいのではないかと思い、ルイスの役は映画監督になったんです。
 
設定の変更があったとはいえ、作品に漂う空気は日本的、しかもコミカルな描写は往年の香港映画のよう(ちなみに監督はツイ・ハークの大ファンで、彼のワークショップで今のキャリアを学んだ)。全く違う文化のうまいミクスチャーをみてとれる。
 
シートウ監督:この作品で描かれる日本的な“曖昧さ”ということに、非常に興味を持ちました。それは中華文化にはみられないことでしたので。この作品に出合えたことで、香港と日本の文化交流の可能性を見出すことができたことが、私にとって喜ばしいことでした。
 
ルイス・クー(以下、クー):この作品で描かれることのどこまでが真実か空想か、という曖昧なところが気に入りました。映像でどう表現するのかということ、またこういった(普通の男の)役は非常にチャレンジでしたし、なによりフランシスと父子役で共演できるというのは、とても大きなモチベーションとなりました。
 
フランシス・ン(以下、ン):僕らはオリジナルの芝居も、香港で上演された舞台も観ていないんですが、脚本を読んでとても面白いと思い出演を快諾しました。だけど、実際にはやりたくない役…。だって、メイクが大変なのはわかってましたからね。最悪なのは10代に戻ること。僕はもう50代なのにですよ(笑)。その一方で、「早く撮ろうよ」と監督に何度も電話して急かしていた自分もいました。
 
このふたりをキャスティングできたのが本作の勝因と言っていいだろう。じつはルイス・クーが決まったのはかなりギリギリのタイミングだったそうだが、「この作品には“正しい配役”でないと成功しないと思ったから、待ちましたよ」と監督。
 
シートウ監督:7年来の友人でもあるフランシスに声をかけ、そして彼の友人であるルイスが来てくれた。彼らがこの映画のキーパーソンであることは間違いないです。
 
監督は舞台界では大物の演出家だが、映画は初めて。香港映画界きってのスターふたりにとって、彼の演出はどう感じられたのだろう。
 
クー:撮影前に入念なリハーサルを重ねたのが功を奏しました。これは監督が舞台出身だから。そのおかげで、僕たちは撮影を重ねるごとにこのストーリーに対する解釈が深まり、成長していったと思います。文字では表現できない部分を、リハーサルで確認しあうことができたことは、とてもいい経験になりました。
 
:舞台監督は非常に信頼できます。彼らは常に劇場の中のこと、すなわち舞台と観客のことを考えて演出しますから、ストーリーに集中して議論できるんです。映画監督だと画をどう撮るか、ということに特化しがちで、役者が不安になることもあるんですよ。しかも多くの映画監督は質問されることに慣れていないのか、ちょっと何かを尋ねようものなら“なんだ、文句でもあるんか!”という態度になってしまうことも(笑)。
 
(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)  
 
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