10/27(木)、コンペティション『君の名は。』の上映後、新海誠監督、野田洋次郎さん(音楽)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
新海誠監督(以下、監督):本日は、皆さんおいでいただきありがとうございます。洋次郎さんとこんなふうにお話できる機会はないので、楽しみにしてまいりました。短い時間ですが、楽しんでいってください。
野田洋次郎さん(以下、野田さん):僕も新海さんと久しぶりにお話ができるということで、楽しみにしてきました。
司会:本当に素晴らしい映画でした。この映画は何が素晴らしいかというと、詩の世界、そして野田さんの音楽だと思います。
監督:洋次郎さんと一緒に映画をできるとなったときに、思ったことはたくさんあったのですが、作業的に最初に思ったのは、言葉の部分、音楽だけではなくて、キャラクターの部分、モノローグの部分は洋次郎さんに任せてしまえばいいんだと思いました。キャラクターに言わせたいことはたくさん出てくるのですが、普通の言葉では伝わりにくいし、詩のような言葉にする必要がある。きっと、歌ってくれるだろうと。洋次郎さんの詩が出てくるのを楽しみにして。タイトルも洋次郎さんの詩の中に何かあるのではないかと。
野田さん:何かタイトルになるように言葉はありますかと、途中で聞かれましたね。
司会:タイトルのような、つまり『君の名は。』みたいな歌が最初に出てきますが、最初からそうしたイメージをされていたのですか。
野田さん:映画の音楽を作るという意識だったので、どちらかというと言葉よりも劇伴、言葉が伴わない音楽を主眼に考えていて、そこのすり合わせといいますか、監督がもっともっと言葉がほしい、もっと曲がほしい、もっと歌モノがほしいという部分で、「えっ、まじですか、もっとですか」というやり取りがかなりがありました。
監督:野田さんとの作業は2つに大きく分かれていて、前半が4曲の歌モノについてのやりとりがあって、いただいた曲をコンテ、演出に反映しては戻して、また変わってきたものを反映しては戻して、というやりとりをひたすらやりました。その後、劇判で、実際のBGMについてのやり取りをやって、ずっとお付き合いいただきました。どちらがハードだったというか、気持ち的には主な仕事でしたか?
野田さん:言葉が映画を邪魔してしまうのではないかという意識が常にどこかにありながら、ただ監督の強い意志をすごく感じていたので、ここは攻めるんだというところ、特に、「前前前世」がかかるところは攻め切ってやろうと。監督にそういう気持ちにさせていただいたので、すごく励みになりました。気持ち的には、BGM、インストゥルメンタルをやっているときの方が楽しかったです。(笑)
司会:全く新しい世界を洋次郎さんが持ち込んで、監督はそれをすべて映画の中に納めていますよね。素晴らしいです。
野田さん:公開してから大きな反響があるということは、いろんな説明づけができると思うのですが、監督が、そういうセオリーを、今までにない流れを、堂々と強い意志をもってやったというところが凄いことだなと。それも大きなひとつのファクターだと思います。
司会:これは映画ではなくて詩なんだ、という気持ちを持たれましたか?
監督:もちろんまずは映画であって、映画を作っているつもりでした。洋次郎さんが、セオリーを無視していたとおっしゃってくださったところは、今だからこそ少し誇らしく、嬉しく思えます。ただ作っているときは、観客にとって、どうすれば面白いだろう、どうすればゾワっと鳥肌が立つような瞬間を迎えてくれるだろうかということをずっと考えていました。どう組み立てるべきかというよりも、どう感じてもらうべきかを考えていました。
司会:ストーリーとして考えると、野田さんの歌詞には、今2人の関係を大事にしようというものがある。新海さんは、希望をもってそれに向かっていこうとしている。ところが、背景には、ある種の忘却があって、きっと忘れてしまうに違いない。会ったばかりなのにサヨナラが後ろに控えているに違いない。死も含めて。何か決して忘れてはいけない人生の中のものを2人とも抱えている気がしましたが、そういうものへのこだわりが何かありますか?
監督:作っているときに感じたのは、映画って瞬間、瞬間が通り過ぎてしまう表現様式なんだということです。すごく好きなフレーズ、それは劇伴でも歌詞でも、最高のエモーションを組み立てることができたと思った瞬間に、そのシーンは終わって次に進まなければいけない。常に、あんなに美しい瞬間があったのに、それは過ぎ去っていくことの繰り返しで、映画作りの切なさと重なりました。
野田さん:主人公のキャラクター2人が、単純で非凡な恋愛をしていて、それをあんなに間近で見て歌にしていいよと言われたので、追体験というか、あの恋愛を体験したときにどんな言葉が出てくるだろうと、そういう純粋な思いで歌詞をどんどん書きました。それを次から次へ監督に投げていきました。
Q:監督の別の作品では登場人物のすれ違いもありました。『君の名は。』のハッピーエンドというのは、最初から決めていたのでしょうか?
監督:決めていましたね。映画の中で、一回大きな奇跡が起きる話にしたいと。というのは、現実がハードすぎるので、何か願いのようなものでもいいから奇跡を起こしたい、そういう映画を一回作りたい、そういう気持ちで作りました。あと、洋次郎さんにエンディングの曲「なんでもないや」をいただいて、「もう少しだけでいい、あと少しだけでいい、くっついていようよ」という歌詞を見たときに、奇跡を起こして出会わせて終わりにしていいんだという確信が持てたのです。それは、みんなが常に思っている願いだからだと思います。僕たちの関係性はずっと続くかどうか誰にもわからない。続く場合もあるけれど、続かない場合もあって。「もう少しだけくっついていよう」の繰り返しで一生が続くので、この歌詞があれば、最後に出会っても、なるほどという映画になるのではないかと。
Q:美しさは人によって考え方や概念が違ってくると思いますが、今回の制作や音楽で、美しさについてのジレンマのようなものがあればお聞かせください。
監督:最初から過剰なものにしたいと思っていました。美しさも含めて。ちょっと受け止めきれないぐらいの映画にしたいと。とにかく全部つぎこみたいと。その気持ちもあって、ボーカル曲を4曲お願いしていて、その意味では、音楽側にも過剰な要求だったのかと思いますが、どうでしたか?
野田さん:この映画からあふれ出るようなものは、2年前の時点で監督から僕に伝わってきていました。監督のすごいところは、諦めないところ。アニメーションの監督としては、諦めないところは必要な才能だと思います。普通の人間ではない感じと言いますか、僕だったら、力の加減があると思うのですが、すべての部分で、音楽、背景、人物、声の部分で、淡々と飄々と諦めない姿勢が凄いなと。それが全部出ている映画だなと思いました。
監督:でも、みなさんご存知のとおり、諦めないのは洋次郎さんも同じで。OKだというところも、そうじゃないと畳みかけてこられて、しつこいなと。(笑)
野田さん:ペースに巻き込まれて。監督にだいぶ触発されたところもありますし。
監督:いえいえ、もともとそうでしょう。(笑)
野田さん:音楽によって、シーンを組み替えたり、長さを変えたりと、一緒に作っているんだという意識を持たせてくれました。一緒にやっていますよ、あなたも道連れですよと。だから余計に、監督がOKと言っても、その先に光が見えると、こちらも引き下がりませんでした。今年の3月~4月までやっていましたね。
監督:今日は楽しかったです。
司会:また素晴らしい、新しい世界を作ってください。