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2016.10.23 [インタビュー]
岩井俊二監督、自らの豊かな原体験を若年層にも… 東京国際映画祭特集上映に向けて
岩井俊二監督  
第29回東京国際映画祭(10月25日~11月3日)のJapan Now部門で、岩井俊二監督の特集上映が行われる。ラインナップは、今年公開された長編最新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」を皮切りに、「Love Letter」「スワロウテイル」「ヴァンパイア」「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の5本。映画祭開幕を前に、岩井監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
 
「監督特集 岩井俊二」が行われるJapan Now部門は、同映画祭で昨年新設されたセレクションで、現在の日本を代表する作品の数々を映画祭独自の視点で紹介。昨年は原田眞人監督の特集を実施し、ざっくばらんなトークで各回、大盛況となった。今年は国内外で幅広く活躍し、アジアで絶大な人気を誇る岩井監督に白羽の矢が立った。
 
ラインナップ5作品のなかで、特にファンの郷愁を誘うことになりそうなのは、会場となる六本木ヒルズアリーナで野外上映される「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」だ。穏やかな面持ちを浮かべる岩井監督は「先日、岩手で宮沢賢治のイベントがあったのですが、そこでメイキング映像と一緒に上映していただいたんですよ。久しぶりに見ましたが、現場の演出も含めてだいぶ今と違うなあと感じて、懐かしかったですね。スーパーせっかちに演出していましたから。あれは確か12日間くらいで撮ったんじゃないかなあ。日中の話だったから夜間に撮るものがなくて、1日の取れ高が少ないもんだから結果的に長い撮影になったんですよ」と明かす。
 
アジアでも絶大な人気を誇る岩井監督だが、本人は「こうなるとはまったく思っていなかった」と予想外の出来事だったと打ち明ける。それでも、より多くの人々、なかでも若年層の人々に豊かな映画体験をしてもらいたいという。「僕が10代の頃、初めて映画を見た時期にすごく多くのインスピレーションを受けたんです。その原体験を大事に、創作活動を続けています。作っている内容が大人向けのものであっても、『10代の子たちが初めて出会う映画になったらいいな』なんて事をどこかで思っているせいか、新作を公開すると若い人がたくさん来てくれる。それは僕にとってもすごくいいこと。僕も若い頃、大人の映画を見て『いいな』と思っていたから、そこは容赦なく大人向けでいい。それを若い人たちに見てもらえるというのは、本望ですね」。
 
岩井監督自身の映画祭初体験は、1995年。山口智子&豊川悦司共演の「undo」がベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、NETPAC賞を受賞した。「あの時は不思議なブッキングで、僕の作品だけだと短編になってしまうから、利重剛さんの『エレファント・ソング』と2つで1本みたいな、今では考えられないカップリングで上映されたんですよ。そのうえ賞までいただいたけど、あんな不思議なことを誰が考えたんでしょうねえ」。当時のマーケットを見て危機感が芽生えたそうで、「日本のブースなんかない状態でした。世界中の映画人が作品を売り買いしているのを見て、『こういうところに日本のブースがないのって寂しいよね』って話した記憶はありますね」と述懐する。
 
とりわけ当時は、「20代のOL層の女性たちが洋画しか見ない時代だった。ヨーロッパ映画のブームで、単館の劇場もたくさんあった。そういう流れのなか、女性ファンはとにかく邦画を見てくれなかった」と振り返る。そして、「映像の仕事をしてきて、いよいよ僕も映画を撮れるという状況になったとき、おのずと参考にするのは海外の映画でした。ミュージッククリップをギリギリの低予算でデビッド・フィンチャーの世界観に見えるよう、撮影技術とかマネできるものは取り入れていたし、テレンス・マリックを参考にしたこともあった。そういう意味で、今よりも海外が近かった気がします。逆に海外へ行くようになって、『これじゃ全然足りない』と感じることもあった。周囲は日本人ではなく、アジア人としてしか見ていない。3・11以降、日本にとどまった創作活動を続けてきたわけですが、これからアジアを含めていろんな国と映画を作っていく流れに戻っていくのかなっていう気がしていますね」と言葉を選びながら、静かに語った。 
 
第29回東京国際映画祭は、10月25日~11月3日に東京・六本木ヒルズほかで開催。  
 
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