第29回東京国際映画祭(10月25日~11月3日)の目玉企画のひとつが、アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」だ。東映アニメーション時代に手がけた初監督作品「デジモンアドベンチャー」から、「スタジオ地図」設立後に発表した近年のヒット作まで、映画に情熱を注ぎ続ける細田守監督の軌跡をたどるラインナップとなっている。歩んできた道のり、過去作に共通するテーマ、さらに日本の映画界をけん引する監督の1人として同映画祭に対する思いを語ってもらった。(取材・文・写真/編集部)
初監督作品「デジモンアドベンチャー」(1999)から17年。「1作1作、違うようなものを作って、見てくださるみなさんに楽しんでもらおうと思うんです」という細田監督作品には、17年経ってもずっと変わらない志がある。「首尾一貫して、子どもの成長、子どもを応援するようなつもりで作っているところがあります。見に来てくれる子どもたちに対して、子どもたちに寄り添ってあげたいという作り手からの気持ちがないと、作っている方も面白くないんです。子どものときに見たな、と覚えていてもらえるような作品になるといいなと思っています」。
細田の名が広く知れ渡るきっかけとなったのは、口コミで話題を呼びロングランヒットを記録した「時をかける少女」(06)。「小規模公開なのに思いもかけないようなたくさんの方が見に来てくださって、今に至る、大きな転換点になった作品だと思います。たった6館の公開から始まって14 本のフィルムを使いまわし、9カ月も上映された『時をかける少女』は、公開館数の多い大規模な作品よりもすごく充実度があって手応えを感じたし、映画を作ることへの広がりを感じました」。
「時かけ」ヒットでの、もうひとつの発見が観客の存在だ。「東映ではテレビをやる機会が多かったので放送したらおしまいみたいな感じでしたが、映画では舞台挨拶をすると見てくださるお客さんたちの顔が間近で見えるので、自分はこの人たちに向けて作っているんだとはっきりわかる。自分のできる力で、アニメーション映画を頑張って作ろうという気持ちを、お客さんに教えてもらったというか、励ましてもらいました」。
その意味でも、各国からさまざまな映画人、映画ファンが訪れる国際映画祭という場は「一種の指標であり、特別な存在」だという。「僕らは国内の興行や評判だけで完結しがちになりますが、日本の観客に向けて作った映画が、世界の方からどのように見えるのかを知る良いきっかけになると思うんです。それは映画だけではなく、日本やわれわれ日本人が世界からどう見えるのか、日本人はどんな美意識を持ち、どんな位置を占めて、どのように芸術に貢献するのか、といったことにも発展する。日本の中にいるとあまり考えないようなこと、それは日本人のアイデンティティとはなにかを考えさせられ、どんなアイデンティティがあるのかを確かめる良い機会であると思うんです」。
海外から日本を見たとき、我々が気づかないような良い面、悪い面も含めて見えてくる。「映画祭の場で各国の映画とともに日本の映画も見ることによって、日本の映画だけを見ることとは違った視点を得ることができるから、すごく有意義な時間になると思うんです。日本や日本人が相対的に見えるから、またより面白い発見がある気がします。僕たちの作品もアニメーション映画という枠内で見ることと、国際映画祭という枠内で見ることでは、見え方が違って面白いんじゃないかと思います」。