10/27(木)、コンペティション『誕生のゆくえ』の上映後、モーセン・アブドルワハブさん(監督)、エルハム・コルダさん(女優)、アリ・アスガル・ヤグゥビさん(エグゼクティブ・プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒
作品詳細
アリ・アスガル・ヤグゥビさん(以下、アリさん):この作品を楽しんでいただければと思います。良い質問をいただけることを楽しみにしています。
エルハム・コルダさん(以下、エルハムさん):ようこそ、私たちの映画を見にいらしていただき、ありがとうございます。私は日本へ来るのは今回3回目です。3回も日本に来られたことをうれしく思いますし、今回は映画のために来られたことを喜んでいます。映画は楽しんでいただけましたか?
モーセン・アブドルワハブ監督(以下、監督):自分の映画のプレミアが東京国際映画祭であったことを大変うれしく思います。残念ながら、この映画の音声を務めた方が、次のファルハーディー監督の映画の途中で亡くなってしまったのです。今日はこの映画を見ながら彼のことを思っていました。
Q:中絶というテーマを映画にすることは、今のイラン映画ではとてもチャレンジングなのでしょうか? それとも普通に語れることなのでしょうか?
監督:とても難しい質問ですね。こういう問題はイランだけではありません。家族で中絶について考えることはもの凄く大きな混乱が起きます。特にイランの場合は宗教的な問題や信念、社会的なこともあって、混乱はもっと大きいと思います。今のイランの若い世代ではこの問題について考える夫婦は増えていると思いますが、法律的にも宗教的にも禁じられていることなので、問題はもっと深刻になると思います。今の世の中では、夫婦は生活費を得ることにも苦労しているため、こういう問題は起きやすくなっていると思います。信念や家族の将来に関していろいろと考えなければならないので、大変難しいです。日本もそうかもしれませんが、家族の形はどんどん変わっていっています。家族より自分を優先して考えてしまう人が増えているので、とても難しい問題であると感じます。
中絶した人数のデータがないため、どれくらいの家族が中絶を経験しているのか分かりません。しかし、この問題について映画を作るためにいろいろ調べた際に、自分の身近な人たちの中でも中絶を考えたり経験したりしたことがある人がいたので、びっくりしました。
司会:中絶は一つのテーマではありますけれども、この作品は本当は社会と経済状況とその中で何人子供を持てるのかに本質があると思います。そういう意味では、日本は子供が生まれにくい社会になっていて、世界の中でも最も子供が少ない国になっていることは、この映画で描かれているテーマとまったく同根にあって、その分日本人も感情移入がとてもできる作品となっていると思います。
Q:大変考えさせられる映画で感激しました。中絶を扱った映画やお芝居は過去にあったと思いますが、この映画では子供が一人目ではなく、もうすでに一人お子さんがいて、しかも10年くらい間が空いていて子供が授かっているというところに、監督の意図があるんじゃないかなと考えさせられました。そこを監督にお伺いしたいと思います。エルハムさんにも女性の心理について、どういう風に感じて演技をされたのかをお伺いしたいと思います。
監督:実はこのご夫婦は幸せな家庭を持っています。子供もいて、お父さんと子供(男の子)の関係もとても良いですし、夫婦もお互いに愛し合っている様子がわかると思います。しかし、突然予定していない妊娠が起きます。そういう、家族の中で突然予定していないプランが起きたらどうなるのだろうかと思って、この作品を作りました。お父さんが混乱するのは、自分の将来や仕事、経済面などでいろいろ計画していたことが、突然の奥さんの妊娠ですべて壊れてしまうわけです。お父さんが子供を嫌いではないことはわかりますが、自分の将来がこの妊娠でどうなるのかわからない不安のために、子供はほしくないという態度をとります。
司会:男の子がただ可愛いだけじゃなくて絶妙に生意気で「嫌なガキだな!」(笑)と思わせるところがとてもリアルで良いですね
エルハムさん:この役をいただいた時にいろいろ考えましたが、自分にはふたつの大きなポイントがありました。
ひとつは、イランに住んでいて家族を持っている女性が妊娠した場合、普通は男性がいろいろと決めると思いますが、今のイランの女性は強くなっていてそれらを決めていけるので、この女性のパワーを演じなければならないと思いました。特に、彼女の方から家を出て、別れても子供を持つという決心を旦那に伝えるパワーがあります。その女性のパワーを出さないといけないと思いました。
もうひとつは、最初は子供をおろすことにしますが、途中で中絶は生きている人間を殺すことになるから、そこで胎児も人間として考えないといけなくなるわけですよね。お腹にいる子供を守らないといけない、人間の命はとても大切だ、と。最初に病院に行って失敗した時は、神様もそう言っているだろうとか、周りもそう考えているのだろうというように考えさせないといけないのかなと思って、心の準備をしてこの役に挑みました。
Q:二人目の子にダリヤという名前をつけることにしたと話していたと思いますが、その名前に込められた意味はありますか?息子さんがミュージックビデオを作ったのを見せた時に、お父さんが心配とか嬉しさとかが混ざった複雑な表情をしていたのが印象的でした。映画製作に関わっていくイランの映画界の次の世代に何か期待されていることがありましたら教えてください。
監督:生まれてくる子供の名前にしたダリヤは、良い名前だなと思って適当に選びましたが、考えてみると、ダリヤはペルシャ語で海の意味です。海は遥かに広がっているものなので、脚本を書く時に無意識に選んでしまったのかなと思いました。
もうひとつ、男の子は遊びでミュージックビデオを作ったシーンについては、新しい世代の映画はどう撮っていくのかとか、映画監督だったお父さんが新しい世代でどうするのかを考えたわけではありません。息子がミュージックビデオを作る時、イランのトラディショナルな音楽ではなく、流行りのハッピーという曲を使って作っています。それを見る時にお父さんが微笑みますが、その微笑みは恋に失敗して悲しかった息子が立ち直ってまたハッピーになったと考えたからです。それはお父さんと息子の愛情です。それと、息子は活発的な男の子だったので、明るい気持ちを持っていて、西洋の文化を家族に入れたりとかして明るい気持ちを作ってくれるので、お父さんがほっとしたという感じで微笑んでいます。