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2016.11.01 [イベントレポート]
「今回の作品を通じて、カメラというものはそれぞれの資質、考え方を映し出すものだと思いました。」アジアの未来『エヴァ』-10/28(金):Q&A

エヴァ

©2016 TIFF

 
10/28(金)、アジアの未来『エヴァ』上映後、ハイム・タバックマン監督、アヴィ・クシュニールさん(俳優)、ロネン・ペン・タルさん(プロデューサー)、ダヴィッド・シルバーさん(プロデューサー)、アクセル・シュネッパトさん(撮影監督)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒作品詳細
 
ハイム・タバックマン監督(以下、監督):東京の皆さん、こんばんは。実はこうして観客の皆さんと一緒に映画を観るということは、私にとっては初めてのことでした。こうして皆さんの生の感想をいただき、お話しできれば幸いです。
 
アヴィ・クシュニールさん(以下、クシュニールさん):今日いらっしゃった皆さん、本当にありがとうございます。今上映されました映画の中で演じた役者として、皆さんがこのように観てくださったこと、ここに来てくださったこと、東京でみなさんとこの映画を観られたことに感謝しています。重ねてありがとうございます。
 
ロネン・ペン・タルさん:今日ここに来てくださった皆さん、本当にありがとうございます。日本に来るのは初めてですが、皆さんとこのようにイスラエルから遠く離れたところで、このように映画を観られたことをとても感謝しております。来てくださって、本当にありがとうございます。
 
ダヴィッド・シルバーさん(以下、シルバーさん):このようにこの東京に来られたことをとても感謝しております。ここに来られております、イスラエル大使館の皆さんにも大変感謝しております。私はこのようにここで皆さんと映画を観ることができましたけども、この作品を皆さんがごらんになってどのように感じられたか、どのような思いを持たれたかを聞くことを、大変興味深く思っております。よろしくお願いいたします。
 
アクセル・シュネッパトさん:皆さん、こんにちは。私はベルリンから参りました。今回、東京国際映画祭「アジアの未来」でこのように上映させていただきますことを非常にありがたく思っています。
 
司会:ワールドプレミア上映でして、スタッフの方も含めて、今日初めてこの映画が一般に上映されたということになります。本当にはるばるお越しくださいましてありがとうございます。イスラエルの映画は毎年本当にたくさん応募いただいて、しかも本当に面白くて、優れた映画が多くて、もっともっと選びたいところなのですが、今年はこの『エヴァ』を「アジアの未来」で上映させていただいています。
監督からこの物語の背景、イスラエルの社会でこういうことが本当にあったのか、あるのか、その辺のことを簡単に教えてください。

 
監督:イスラエルではこのような事例がたくさんあります。この作品は事実に基づいています。このように、家族や配偶者が自分たちの周りから消えてなくなったと思われていたけれども、実は生きていたという多くの事例があります。この物語は、このシナリオを最初に書いた脚本家の家族に起こった出来事を元に描かれています。
 
司会:戦争の後にはこれと似たようなことがあるということは、アジアの事例からも聞いています。
 
Q:素晴らしい映画をありがとうございました。先ほど、今回描かれた設定は、脚本家のご家族にあった実際の出来事だと伺ったのですが、主演の方にお尋ねします。やはりこうした特筆的な心理描写を演じる上で、実際にその脚本家の家族の方から実際にアドバイスをもらったのでしょうか。それともご自身の想像で演技をされたのでしょうか。
 
クシュニールさん:ご質問ありがとうございます。私の答えは大きく2つのパートがあります。俳優としては、それぞれのシチュエーションを与えられたところで演じております。私はイスラエルで生まれ育った人間ですので、イスラエル人として私が思い起こすことがあります。それは、私が子供の頃のことです。私が住んでいた家に一人の女の人が住んでいました。彼女は強制収容所から戻ってきた女性でしたが、彼女はいつも何かに怒っていました。私たちがボール遊びをしていても、家の中で飼っていた犬に対しても、いつも怒っていて、そして常に何かに怯えているようでした。私たちは、それがどうしてなのかわかりませんでした。ですから親に「なぜあの人はいつもあんなに怒っているのか」と尋ねると、両親は「シッ」と言って、「そのことについては触れてはいけない、しゃべってはいけない」と言いました。
私はこの役を演じるにあたり2つのことに重点をおきました。ひとつは妻に裏切られた夫、そしてもうひとつは、相手のことが全くわからない人、つまり相手が何を思っているのか、なぜこのように行動するのか、それが理解できない人間を演じました。この映画の中では、テキストが非常に少ない。この話は、みなさんが見ておわかりの通り、主人公の自分の物語、自分語りという形式になっています。例えば、途中でエミールという男性のところに小さい女の子の写真が壁に貼ってありました。しかし、それについて何かを語るというシーンはありませんでした。これはもう彼の中で、そのことがわかっているから、それをさらに広げて話すというシーンはなかったわけです。ですから、ひとつひとつの事柄、すべてのことに対して、彼自身の目から見た世界が描かれています。そして、今回、ハイム・タバックマン監督と2人でこの役について話し合っていくうちに、彼は私にどのような気持ちで演じたらよいか、どのようなメンタルで演じたらよいか、そうしたことを常々ガイドしてくれました。ですから、今回の作品を通じて、カメラというものはそれぞれの資質、考え方を映し出すものだと思いました。
 
Q:作中でリンゴが何回か出てきて、とても印象的でした。実際に旦那さんと奥さんの出会いもリンゴが使われていたので、リンゴは何か特別な意味があるのかなと思ったのですが、エミールが旦那さんに「君はオレンジと草原の匂いがするから」と言っていて、あんなにリンゴが出てきたのに、なぜオレンジなのかと思いました。オレンジとリンゴのそれぞれに何か意味があるのかどうか教えてください。
 
監督:そこに注目していただいて、ありがとうございます。まずリンゴについてですが、実はこれは個人的な好みです。私の家族はいつもあのようにリンゴを分け合っていたものですから、おそらくそうしたところからリンゴを使うことになったのだと思います。紅茶のシーンがあって、紅茶を作るときに、紅茶の中にヨエルがリンゴをひとかけ落とします。実はこうやって紅茶を準備することができるのは、旦那だけであるという、個人間の特別な繋がりも示しています。
それぞれの関係性を示しており、随分とシナリオを考えました。これはひとつの芸術的な作業でした。その中で、私は友達との話を思い出しました。それは、その友達のお父さんはとても恥ずかしがり屋なドイツ人、お母さんはイエメン系のユダヤ人、ふたりともユダヤ人ですが、このふたりは映画の中のエミールとエヴァと同じような出会いをしたのです。ふたりとも言葉が通じない、けれどもリンゴを分け合って、そこからふたりが付き合い始めたという、そういう実際の話を聞いたことを思い出しました。
オレンジは、イスラエルのシンボルでもあります。イスラエルには果樹園がいっぱいあり、オレンジをたくさん作っています。柑橘類を作ることが非常に盛んです。ですから、オレンジから、主役の人がイスラエル生まれであること、イスラエルの土地、イスラエルの匂いというものを感じられるということになります。
 
司会:ありがとうございました。製作面でお聞きしたいことがあるのですが、この作品はいくつかの国の名前がクレジットされています。これは単に資金の問題でそうなったのか、あるいはどこかの国が中心になって、企画の段階から作っていったということなのか、またプロダクションの中心はやはりイスラエルだったのかという点を聞かせてください。プロデューサの方にお願いします。
 
シルバーさん:おっしゃる通り、この映画のクレジットにはフランス、ポーランド、ドイツという3カ国の名前が出てきますが、これはそれぞれの国の配給会社や制作会社が非常にこの映画を気に入ってくれたことが理由になっています。また映画だけではなく、監督や俳優たちを気に入ってくれて、自分たちの国でも配給をしたいと言ってくれて、最終的にはこの映画の制作のために資金の提供までしてくれました。そのため最後に3カ国の国名がクレジットされています。わかりやすい例としては、ここにいるドイツ人のアクセル・シュネッパトが、映画を撮影してくれたということです。彼はドイツのベルリンの制作会社からやって来ていました。そして彼の撮影は、拍手が送られるほど素晴らしいものであったと考えております。
 
監督:逆に皆さんにお聞きしたいのですが、例えばこの映画を観て、どんな小さなことでも、これが気に入らなかった、わからなかったとか、混乱したとか、文化の異なるみなさんから見たときに、そういったポイントがあったのであれば聞かせていただきたいと思います。何かありますでしょうか。
 
※以下、ラストシーンについての言及があります。ご注意ください。


 
 
Q:これは観客が考えろということかもしれませんが、ラストシーンの意味を教えてほしいと思っています。3人で夕暮れ時に、遠くの方に馬みたいなのが見える家の前の風景を眺めるシーンで終わりますが、その狙いや意味がもう一つわからなかったです。ぜひお聞かせいただけないでしょうか。
 
クシュニールさん:あなたはそれをどのように思われましたか?きっと皆さんひとりひとりが違うことを考えられたかと思うのです。私の息子がそこに座っていますが、彼が初めてそのシーンを見たときに「あのぼーっとしたものが見えるのはお墓なのか?」と聞いてきました。ですから私は「わからないよ」とだけ答えました。つまりそれぞれに、それぞれの見方があると思うのです。またこれは役者としてでも、監督やプロデューサでもなく、私個人としての意見なのですけれども、私はあのシーンでエミールとヨエルがふたりでそのまま住み続けたのではないか、ヨエルがそれを受け入れたことを示しているのではないかと考えています。けれども、もしもう5分あったとしたら、奥からエヴァが出てきて、2人に紅茶を持ってくるかもしれませんね(笑)。
 
シルバーさん:今、クシュニールの息子さんが、ぼーっとしたものが見えたと言っていた話がありましたが、私は当初それに気づいていなかったので、その意見を聞いたときに非常にびっくりしました。でもプロデューサの私の中でも、エヴァは生きているのではないかと感じています。
 
監督:今の「ぼーっとしたもの」が技術的な問題でないことを祈ります(笑)。もうひとつ私が望んでいるのは、これを観た皆さんが、果たしてエヴァは生きているのか、死んでしまったのか、それともどのような結末を迎えたのかということを、明日の朝まで考えながら帰っていただければなと考えています。
 
司会:この映画、結構引きずるのですよね。2~3日ずっと考え続けるようなタイプの映画で、こういう感覚になるのは意外と珍しいのではないかと感じていますが、ぜひ皆さんもこの映画のことを頭の隅に置いて頂ければと思います。オープンエンドと言ってしまうと簡単ですが、やっぱりこれは見た人が各自いろいろ考える作品だと思います。本当にじっくり考えていると2~3日経ってしまうので、監督のおっしゃるように是非、一晩寝て明日の朝どう思うかを振り返って頂ければと思います。本日はありがとうございました。

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