10/29(土)、CROSSCUT ASIA部門『ラブリー・マン』上映後、テディ・スリアアトマジャ監督、ライハアヌン・スリアアトマジャさん(女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒作品詳細
テディ・スリアアトマジャ監督(以下、監督):今日は、ほぼ満席のお客様に観ていただけてとても嬉しく思います。やはり映画というのは大きいスクリーンで、大勢で観てこそだと思うので、特別な体験を皆さんにしていただけたのではないかなと思います。ありがとうございます。
ライハアヌン・スリアアトマジャさん(以下、ライハアヌンさん):皆さん、お越しいただきありがとうございます。私もここに来ることが出来て嬉しいです。
Q: すごくいい映画で最後は泣いてしまいました。インドネシアは、宗教的な問題やジェンダー的な問題は日本よりもフリーではない国のイメージがありますが、実際にこういうお仕事をされている方っていうのは、沢山いらっしゃるのでしょうか。
監督:実際、どれくらいの数いらっしゃるか、というのは分からないです。街娼という、道に立っている方は夜遅くから限られたエリアで活動しています。ですから、ジャカルタに数日間、日中に居るだけだと、なかなか目につくことはないかも知れません。でもこうした女装の方はいますし、レアではありますがお目にかかることはあります。
Q:父親としての姿に戻って娘さんと話すところと、娘さんの布を取って会話するシーンに共通点があるように感じたのですが、何か意図したことはありますか。
監督:おっしゃる通りです。彼女が途中でベールを取るのは、お父さんが変に緊張したりせず、リラックスして娘と接し、心を開いてくれるということを考えてのことなので、二人の間の壁が無くなった瞬間だと思います。お父さんの姿に戻ったことと同じですね。そしてこれは3部作で、ほかの2作品は既に上映されていますが、テーマは何らかの「変化・変革」が自分の中で起きることです。そういうシーンがあります。ですから、今ご指摘いただいた部分は象徴的なシーンになります。
司会:ライハアヌンさん、あのベールを取る時はどのような気持ちで演技をされたのでしょうか。
ライハアヌンさん:大きな質問ですね(笑)。彼女の行動の理由は、今、監督が説明した通りですが、やはり心理的なものが多く関わっています。通常、ヒジャブ(ベール)を被っている女性がそれを取るという事はタブーなのです。とても珍しくて、通常は無い行動です。しかし、チャハヤがベールを取ったことで、彼女の表情が変わります。表情がより見えるようになることで、自分をむき出しにするというメタファーになっているわけです。直接的な行動ですが、比喩の表現であり、それによって緊張感が和らぐと理解しています。
Q:以前、大阪でこの映画が上映された時に観て大変感動し、また今日観に来ました。私の勘違いでなければ、主演の方は(監督の)奥様だったかと思いますが、すごく若い娘さんの役を本当に見事に、素敵に演じていらして、素晴らしいなと思っておりました。彼女を選んだ経緯を聞かせてください。
司会:この映画は5年前の作品ですよね。
監督:2回目を観に来てくださってありがとうございます。ご指摘の通り、(ライハアヌンさんは)妻です。そして『ラブリー・マン』は彼女と一緒に仕事をする2作目の作品です。ちなみに、既に私たちには3人の子供がいます。なぜ妻をキャスティングしたかというと、私が脚本を書き終えると、最初に読んでくれるのが妻なのです。彼女に見せたところ、とても気に入って「ぜひやりたい」と彼女が言ってくれたので、彼女を想定して書き換えをしました。実はこの撮影の時に私たちの間には1人子供がいました。まだ小さかったので、彼女が演技をするときは僕がその子を抱いてというふうに、まさにファミリー制作の映画となりました。
Q:インドネシアの国内では、この映画に対してどういう反応がありましたか。LGBTやジェンダーの問題に関して、日本とインドネシアでは習慣などが全く違うと思うので、お二人の周囲や観客からどのような反応があったのかをお聞きしたいです。
監督:この映画を撮った時は国内での上映は念頭にありませんでした。それはLGBTの部分ではなく、チャハヤがヒジャブ(ベール)を取るシーンが物議を醸す懸念があったからです。インドネシアには、僕の友人ジョン・バダルがディレクターを務めるQ!Film Festivalという映画祭があります。クイア(queer)の頭文字のQで、LGBT作品を上映する映画祭です。その彼に見せたところ「これは是非上映したい」と言ってくれました。僕は「低予算で撮っているので、安っぽく見えないかな」と言ったのですが、それでも是非ということで上映したところ、非常に評判が良く、多くの追加上映もありました。そして、観た方がどんどんSNSで拡散してくれて、それを読んだ海外の映画祭からも招待を受けて海外でも上映されました。いわゆるLGBT系の映画祭では賞も受けました。ですからLGBTコミュニティにはとても快く受け入れてもらいました。それまでインドネシアではトランスジェンダーを扱った映画があまり無かったこともありますが、その後たくさん作られるようになりました。
Q:ライハアヌンさんのお友達は観てくれましたか?女性の友達はどんな反応だったでしょうか。
ライハアヌンさん:私の友人がこの映画を観てとても驚いたことは、私がヒジャブ(ベール)を被っていたことです。いつも被っていないので、「撮影で被ったんだったら普段も被ったら?」なんて冗談で言われ、友人の間では話題になっていました。ストーリーに関しては、とても触発される、心を動かすストーリーだった、とコメントもいただきました。私は10代のキャラクターを演じているのですが、10代の人達からも性別に関わらず支持を受けました。そして同業の、映画作家達からも支持を受けた作品です。