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2016.11.01 [イベントレポート]
「私たちは毎日ニュースで悲惨な出来事を見ていますが、何も行動を起こしていない」コンペティション『誕生のゆくえ』-10/28(金):Q&A

誕生のゆくえ

©2016 TIFF

10/28(金)、コンペティション『誕生のゆくえ』の上映後、モーセン・アブドルワハブ監督、エルハム・コルダさん(女優)、アリ・アスガル・ヤグゥビさん(エグゼクティブ・プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 

モーセン・アブドルワハブ監督(以下、監督):私の映画を観に来ていただきありがとうございます。
 

エルハム・コルダさん(以下、エルハムさん):お越しいただきありがとうございます。楽しんでいただけましたでしょうか。
 

アリ・アスガル・ヤグゥビさん(以下、アリさん):海外で初めて私たちの作品が上映されるということは大変光栄なことです。ありがとうございます。
 

Q:中絶というのは、映画のテーマとしてはとてもチャレンジングな内容だったと思います。監督がこのテーマを映画にしようとしたきっかけを教えていただけますか。
 

監督:中絶は宗教的にも法律的にも禁止されていることで、家族の中でこういった問題を考える場合、宗教的にも法律的にもたくさん問題を抱えているため、テーマにしたほうがいいと思いました。
 

Q:エルハムさんはこの映画の話が来た時、すぐに「やろう」と思いましたか。それともためらいがありましたか。

 
エルハムさん:アブドルワハブ監督はとても著名な方ですので、ぜひ一緒に仕事がしたいと思っていました。ただ役作りに関しては色々とリサーチし、考えなければいけないと感じました。そのため監督と話し合って1ヶ月半くらいかけて役作りをしました。
 

Q:イランではどこまでチャレンジングな内容なのか分かりませんが、出資する立場のプロデューサーとして、このテーマに参加することにためらいはなかったですか。
 

アリさん:私にとって決断は簡単でした。この中絶という問題はイランだけではなく世界各地に共通する問題だと考えています。アメリカでも、トランプ氏とヒラリー・クリントン氏も議論の一つとしてこの中絶問題を取り上げています。グローバルな問題だからこそストレートに取り組むべきだと考えました。脚本を、プロジェクトが始まる1~2年くらい前に読んだのですが、ローカルな問題として捉えるのではなく、もう少し普遍的な問題として捉えようと考えました。凄くストレートにこの課題に取り組んでいると思います。
 
Q:ティーンエイジャーが妊娠して、というドラマが描かれがちですが、最初から夫婦の問題にしようと思われましたか。
 

監督:今の世の中や社会を考えると、自分中心で物を考えている人達が増えていると思います。自分の道を選ぶには色々な問題を解決しなくてはならず、今の世の中の一つの大きな問題ですので、それを最初から描こうと思っていました。
この話を作るとき一人ひとり人物を攻めるのではなく、一人ひとりを判断することではなく、その判断を見る側に任せようと、自分も見る側に立ってものを見て書こうと思いました。まったく同じ問題をいろいろな角度から見ているので、お父さんの見方と息子の見方も違うし、いとこの見方も違う、そうしていろんな角度から同じ問題を見ているところがこの作品の興味深い点だと思います。
 
Q:主人公を男性である夫にしようと思ったのはどうしてでしょうか。妻自身を主人公に妻の視点から描こうとは考えなかったのでしょうか。
 

監督:主役は男性ですが、女性の起こすアクション、つまり女性が決めることにを受けて主役はいろいろと行動を起こさないといけない。つまり真の主役は女性なのです。
 

司会:夫の職業は映画監督ですが、もちろん監督も映画監督ですが、何か理由はありますか?
 

監督:自分は沢山ドキュメンタリーを作っているので、主役を監督にしようと思ったこともあるのですが、でもそれはメインではなく、彼は色々と責任を感じて自分の社会の問題について映像を作っています。社会の責任、環境の責任などを感じているからこそ、新しい子供が生まれてくる責任を持てなくなっている。そういう男です。ただ子供が邪魔だとか、面倒くさいという訳ではなく、自分は責任を取るべきところ、社会の環境などがあるから子供を受け入れられないということです。
 

Q:ジェンダークオリティというグローバルな問題について、監督にはイランの現状がどう映っているのか教えてください。
 

監督:イランの女性はとても強くなっていると思います。大学に入る女性の率がもの凄く高く、男性より女性のほうが大学へ進みます。役場や他の仕事にも必ず女性が就いていて、判断や決断が必要なところでも女性が強く出て判断します。えてして女性の方が判断は正しいと思います。
 

エルハムさん:私は決してフェミニストでは無いのですが、私たちの歴史は男性中心の社会でした。その中で、女性は兎に角自分の権利を知るべきだと思っていました。女性は自分の権利を守らなくてはならない為、社会的にもどんどん出てきていますし、強くなっていると思います。それは私たちの過去があるから今の女性はパワーを手に入れているのだと思います。
 

アリさん:イラン革命直後、1979年頃にアッバス・キアロスタミが書いた「レポート」という作品があるのですが、その中で書かれているのは、この映画で描かれているのと同じように夫婦の問題を扱っています。その作品の中で書かれている夫婦問題では、夫の妻に対する扱い方がこの映画とはかなり違っているので、そういう意味では女性の進出がとても発展してきたな、と思います。
 
Q:車の中での会話シーンに重きをおいて撮っているように思ったのですが、何か意図があったのですか。
 

監督:中絶をするとき、手術するなら早めにしなければならないので、時間がもの凄く大切です。車の中で短時間に物語を語っていたほうがスピーディーだと思って撮りました。もう一つは、残念ながら家族がちゃんと座って話をする機会がどんどん少なくなってきているので、そういう短い間一緒に居るだけでも色んな大切な話をすると思いました。
 

エルハムさん:イランは車の中の会話を凄く大切にしていると思います。特に渋滞が酷いので、知らない者同士でもタクシーに乗ったりするといろんな話をします。政治や、自分の家族の話など、車の中での会話はイランが最も多いと思います。
 

Q:私はポーランド出身ですが、この映画はポーランドで公開する予定はありますか?また、イランでは中絶に関してメディアや政府でディベートが行われているのか、選択肢を与えるべきなのではないか、というような議論が起きているのでしょうか。
 

アリさん:ポーランドの全ての都市に、この作品を無償で送ってご覧いただく準備ができております。この作品を見ていただくことによって、中絶というのは個人の問題であって政府に関わらず他者は関与すべきではないということを知ってもらいたいと思っております。
世界各地で同じ議論が起こっていてアメリカの大統領候補も議論しておりますしバチカンでもずっと議論されていて誰も結論に至ってないと思います。
本当に中絶するか否かというのは妻であり家族、個人が判断することであって誰も関与すべきではないと思います。
 

監督:国によって法案など色々決め事もあると思います。皆で議論をして、もし中絶に反対する方々が勝てば法案が生まれることもあるのでしょう。
 

エルハムさん:私は、お腹の中に居ても人間だと思います。人間を殺してはいけないし子供を大事にしなければいけないと思います。シリアで今沢山の子供が無差別で殺されていることを世界は知っています。私たちは毎日ニュースで見ていますが、何も行動を起こしていない。そういう子供たちの命を大事にしないといけないと思います。

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