10/28(金)、『バードショット』の上映後、ミカイル・レッド監督、メアリー・ジョイ・アポストルさん(女優)、アーノルド・レイエスさん(俳優)、パメラ・L・レイエスさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒作品詳細
ミカイル・レッド監督(以下、監督):初めまして。監督と脚本を務めさせていただきましたミカイル・レッドです。私にとって、2本目の映画である『バードショット』の上映にお越しいただき誠にありがとうございます。質問に対して、喜んで答えさせていただきますので、色々とご質問ください。
メアリー・ジョイ・アポストルさん(以下、メアリーさん):皆さんこんにちは。メアリー・ジョイ・アポストルです。今回、マヤ役を演じさせていただきました。初めての映画出演ですが、みなさんに楽しんでいただければとても嬉しいです。
アーノルド・レイエスさん(以下、アーノルドさん):初めまして、俳優のアーノルド・レイエスです。皆様にお会いできて大変嬉しいです。今回こうした形で私の作品が上映されることを、大変光栄に思っております。ありがとうございます。
パメラ・L・レイエスさん(以下、パメラさん):こんにちは、皆さん。プロデューサーのパメラ・L・レイエスです。今回で東京国際映画祭に参加させていただくのは2度目です。前回は同じレッド監督の『レコーダー』で、同じ部門の「アジアの未来」に参加させていただきました。また呼んでいただけて、石坂プログミング・ディレクター、そして東京国際映画祭の方々に御礼を申し上げたいと思います。私が答えられる質問は、例えば、どのように資金を集めたのかということや、制作にまつわるご質問があれば喜んでお答えいたしますので、なんなりとご質問ください。
司会者:それでは、皆さまからのご質問を受けたいと思います。
Q:素晴らしい映画でした。ありがとうございました。マヤというキャラクターを造形するにあたってのエピソードなどありましたら教えてください。
監督:僕にとってのマヤのキャラクターは、私たちの原点だといっても過言ではないと思います。私たちも生まれたときは彼女のように無垢なわけです。残念なことに、私たちは長く生きれば生きるほど、モラルがなくなり、どんどん自分自身が変わっていきます。モラルが低下したりして。映画の冒頭ではレイエスさん演じる若い警官もすごく無垢です。そしてマヤも無垢です。ところが、残念なことに周囲の大人たちが、現実の世界のことを教えてしまう。最初は全てが白黒はっきりしていたのに、グレーのエリアがあるということを教えられていく。そして社会の弱肉強食の世界では、時にはプレデターにならなければならないということを教えられてしまうのです。だけどもそこでマヤはそういった選択をしません。彼女は無垢なままでいようと努力するわけです。そういった意味では彼女は絶滅危惧種に近いと思います。そういう人間は稀な存在ですから。言い換えれば、マヤはフィリピン鷲なのだと思っています。
司会者:メアリーさんは役作りで、どのような考え方でこの役を自分で理解していったのでしょうか。
メアリーさん:私は初心者だったので、マヤと同じで経験がありません。どのようなキャラクターで演じればいいか監督に聞き、監督の指示通りに演じました。
Q:話の構成や音楽の使い方などとても素晴らしいと思いました。2つ質問があります。まず、監督への質問は、脚本を書くときにどのような思いで書かれたのでしょうか。そして、皆さんそれぞれへの質問は、今回の作品で悩んだところはどういうところだったのでしょうか。
監督:この物語のアイディアは4年程前に思いつきました。それはたまたま私が読んだ新聞記事が発端となっています。その新聞記事には、フィリピン鷲が保護種であることを知らずにフィリピン鷲を殺してしまった父親と息子が、罪に問われて投獄されたとありました。それはとても悲しい話だなと思いました。なぜなら、自然保護の観点からは、鷲が殺されたことはとても悲しいことですが、同時に保護区の周辺の山奥に住んでいる人たちは、教育を受けていないので、保護種というのがいて、殺してはいけないということがわからないのです。こうした知識のない人たちが犯罪者となってしまったことも、とても悲しいことだと思いました。この実話を核として物語を作っていきたいと考えました。また、この映画はクライムストーリーなので、実際にフィリピンで起きた事件を網羅したいと思っていました。数年前に58人もの人たちが集団で殺され、その中には、ジャーナリストも含まれていましたが、映画に出てくるように集団で土に埋められたという事件がありました。社会的には、こうした事件はスモークスクリーンで覆われて、表に出ることがなかったり、詳しいことが語られなかったりするので、こうしたことにもスポットを当てなければならないと感じました。
そして、モラルがとても複雑に絡み合っているような物語を選びたいなと思っています。善悪の区別はなかなかつかないものです。この映画の中でも、絶対悪というものはありません。先ほども申しましたように、マヤと若い警官はとても最初は無垢ですが、彼らを取り囲む社会が彼らを汚していくと言いますか、彼らもそれに順応しなければいけなくなっていくのです。だからこそ、最後に、メアリーが彼に向けてショットガンを構えた時に、彼の眼の中に自分と同じものを見出していたのではないでしょうか。ですから、彼女は彼を撃たずにショットガンを置いたわけで、そういう描写を入れたいと思いました。
パメラさん:この作品のプロデューサーとして私が一番悩んだことは、資金集めです。2014年に、監督と共同脚本家から脚本を受け取り、資金をどう集めようかと悩みました。まず、7万ドルをドーハから得ることができました。その後、賞を受賞したので、そこからも1万ドルを得ました。そして、フィリピンの有名なプロダクションであるアーティカルウノプロダクションから資金を出してもらいました。こうして資金を集めることができました。監督が求める的確な製作費をどう集めるかが、プロデューサーとしては悩めるところなのですが、今回はそれが達成できたと自負しております。
そしてもう一つ付け加えさせていただきますが、フィリピン映画は低予算で制作されます。低予算でありながら、きちんと日数をかけて映画を撮ります。そして働いた人たちには適正な額の報酬をお支払いするということがとても大切だと思います。今回はその両方ができたと思っておりまして、自分でも「頑張ったな」と思っています。
アーノルドさん:俳優としてこの映画に出演して、悩んだこと、難しかったことはそれほどありませんでした。素晴らしいプロデューサーと素晴らしい監督にも恵まれました。ミハイル・レッドという監督は、とても的確なビジョンを持っていて、それを私に的確に伝えてくれました。俳優としては、そのような監督と一緒に仕事ができると、自分の仕事が楽になります。そして、私自身もきちんとした役づくりをしたと自負しております。脚本をいただいてからドミンゴという役作りのため色々リサーチもしましたし、ニュースもよく読むようになりました。ドミンゴが携わるような事件、関連する歴史を学び、役作りをしました。そして、パメラが言ったように、この製制作陣は私たちにきちんと対応してくださったので嬉しかったです。
司会者:この映画のポスターの上や下にいろいろなロゴが入っています。アジアのアートフィルムは、どこが基金として援助しているかよくわかります。この映画は上のマークを見ると、中東(ドーハ)ですね。さらに、韓国からの資金援助もいくつか入っております。この映画だけではなくて、アジアのアートフィルムはこういう傾向が強くなっています。この点、日本はまだ遅れているのですが。余談でございます。
Q:赤い服の登場人物についてお聞きしたいと思います。赤い服を着た登場人物に、何らかの意味づけとか役割があれば教えてください。無垢な主人公とグレーに染まっている社会という対比がありますが、その2つの間に、何かもう一つ加えるような多層にするという意図があったのでしょうか。
※以下、ラストシーンについての言及があります。ご注意ください。