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2016.11.03 [イベントレポート]
「テーマの一つとして“今の世界における日本人の存在”というものを追及したかった」日本映画スプラッシュ『プールサイドマン』10/31(月):Q&A

プールサイドマン

©2016 TIFF

左から渡辺紘文監督、今村 樂さん(俳優)、渡辺雄司さん(製作総指揮/音楽監督)、方又玹さん(撮影監督)
 
10/31(月)、日本映画スプラッシュ『プールサイドマン』の上映後、渡辺紘文監督、今村 樂さん(俳優)、渡辺雄司さん(製作総指揮/音楽監督)、方又玹さん(撮影監督)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
渡辺紘文監督(以下、監督):皆様、今日は月曜日にも関わらず『プールサイドマン』を見に来てくださり誠にありがとうございます。『プールサイドマン』を監督、そして少し作品に出演しております渡辺と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 
今村 樂さん(以下、今村さん):本日は本当にありがとうございます。主演をさせていただいている今村 樂と申します。これからQ&A、答えさせていただきます。
 
渡辺雄司さん(以下、雄司さん):今日はこんなにも多くの方にお集まりいただきありがとうございます。音楽監督、プロデューサーをさせていただいております渡辺雄司と申します。皆様の貴重なご意見をいただけたら幸いです。よろしくお願いします。
 
方又玹さん(以下、ウヒョンさん):撮影をした方又玹です。今日は観に来てくださり本当にありがとうございます。
 
司会:監督、東京国際映画祭(以下、TIFF)に根付いていらっしゃいますね。
 
監督:そうですね。今回で『そして泥船はゆく』、『七日』に続き3度目の日本スプラッシュ部門の出品になりました。なので、スタッフの方や観客の皆様を含め、TIFFには育てていただいておりますし、大変お世話になっていると感じています。
 
司会:『そして泥舟はゆく』は劇中の劇場内にポスターが貼ってありましたね。
 
監督:そうですね。(笑)
 
司会:お二人はご兄弟ですが、企画に関してはどのように決めていますか。
 
雄司さん:生活を共にしていますので、衣食住ともに過ごす中で話し合って徐々に決めていくスタイルを取っています。
 
司会:主役に今村 樂さんを起用した理由をお聞かせください。
 
監督:今村 樂くんのお父さんと私の父が友人で、僕は樂くんとは仲良くしている幼馴染で、彼が一緒に何か面白いことをしたいと話をしてくれました。樂くんから、映画作っているのだからエキストラでも雑用でも手伝うよ、と言ってくれて、じゃあ主役をやってみようとなり今回起用させてもらいました。
 
司会:(今村さんに)主役でセリフがほとんど無いという非常に難しい役でしたが、どのような気持ちで臨まれましたか。
 
今村さん:演技をしたことがなかったので、パソコンで役作りを検索しました。でも参考になるものは出てこなくて、どうしたらいいのかな…と、事件とか記事を見ながらそういうことを自分でも改めて考えて、撮影に入ったら監督もウヒョンくんも雄司くんもいて…、この「大田原愚豚舎」の方たちに身をゆだねていた感じで私はただそこにいるだけという感じでなんとかできました。
 
Q:車中の反応は素の反応なのか、芝居だったのか教えてください。
 
監督:シナリオのようなものは作って現場には臨んでいるのですが、文面にするとあまりにも膨大な長さですので、芝居をするだけが仕事ではないので自分の頭に入りきらない所もありました。最終的には話の流れのようなものを作って話していくという形で、あのシーンになりました。
 
司会:今村さんへの演出はどのようにされたのですか?
 
監督:撮影が非常に長回しなので、僕も今回は上手く喋れているぞ!という流れの場合に、「クスッ」と反応されてしまうと終わりなので、樂くんに関しては、「とにかく笑いをこらえてくれ!」と言いました。何回かそういうことがあったのですが、樂くんはチェロ奏者で、僕の弟も樂くんも基本的には音楽畑の人間なので、ライブ慣れからなのか本番が始まってからの集中力は凄いので、樂くんの存在に助けられました。
 
司会:今村さん、あのシーンはなにか覚えていることはありますか?
 
今村さん:なるべく遠くを見て無になっていました(笑)。
 
司会:笑いたくなる場面は何度もありましたか?
 
今村さん:そうですね、ありました(笑)。
 
Q:ラストのショスタコーヴィチのジャズ組曲風な音楽を使われていましたが、なぜ原曲を使わずにアレンジをした曲を使用したのでしょうか。
 
雄司さん:そのように指摘される方はいると思いました。一番の理由としては、『七日』の時に私のオリジナルで日本的な音楽を作ったのですが、わかりづらいので今回は誰にでもわかるものにしようと思いました。シューベルトの「ます」、モーツァルトの「レクイエム」、ベートーヴェンの「第九」など、誰でもわかりやすい曲を書くと誰でもわかってくれるし、それらで語ってもらえると私としても嬉しいのでそうしました。
 
司会:(ウヒョンさんに)今回、コインロッカーやプールサイドの画など印象的な広い画がありますが、監督の要望、または自分で心がけたことはありますか?
 
ウヒョンさん:ロケ場所へ行ってカメラを置き、アングルを決めたら監督とどれがいいか、など話して決めました。
 
Q:繰り返しの中で変わっていく面白さの感覚をコアに描きたかったのか、それとも現代社会の中での喋らない主人公と周りの関係のメッセージ性を描きたかったのか、この映画の核の部分について教えてください。
 
監督:この映画は、かなり多様なテーマを織り込んで作っているつもりなのですが、この映画の大きなテーマの一つとして、「今の世界における日本人の存在」というのはどういうものなのかを追及するために、今回の映画を作り始めました。劇中に、会話は出てくるのですが基本的に主人公が何も喋らないという、非常に意味のない会話の集積で構成しようと作っています。僕は、作品の全体を見たときに、今まで無駄に感じていた会話や繰り返しの表現などが意味を持ち、お客さんの何か考えるきっかけになってくれればいいなと思いこのような構成にしました。
 
Q:そう思われたことに特別なきっかけはありますか?
 
監督:僕の映画は人間の生活を基盤に置いていますので、僕が栃木県大田原市で暮らしている中で世界が目まぐるしく変わっていく感覚が、地方都市に生きていてもあります。それを映画として表現しようとしたときにこのような表現になりました。
 
Q:(監督に)モノクロの作品でしたが、終盤の20世紀のモンタージュが入った後に中央部分に赤みがさしていたのは、どういった意味でしょうか。
 
監督:それは何もやっていないので、スクリーンの問題なのかなと思います。僕たちの演出としては赤みをかけたりはしていないので、僕はよくわからないですね(笑)。太陽の逆光で白黒にしてしまうと赤みがかかってしまったのかもしれないですね。
 
ウヒョンさん:逆光によって日の光が飛び、それが白黒に映ると少し赤みがさすのだと思います。
 
Q:(監督に)自分自身とシンクロして心拍数が上がり、身の危険を感じるような、恐怖を覚えるような経験をさせていただいたのですが、会場で見ている観客にこのような印象を与えるということを予期されて作品を作られているのでしょうか。もし意識されているとしたらどのような背景で作っているでしょうか。
 
監督:ありがとうございます。モンタージュの場面だと思いますが、先ほどお伝えした通り、この映画は嫌になるくらいシンプルな構成だと思うのですが、映画の中で「この映画はこんな答えを持っている映画だよ」ということを言いたくなかったので、モンタージュのような表現を入れました。
今回の映画は、今の日本社会が抱えている問題を多面的にあぶりだしていきたいという欲求があって作ったものですから、モンタージュの場面に関してもそうですし、ほかの場面に関しても、僕は見た人それぞれに解釈や考えを持ってほしいと思っているので、あのような表現になっています。あの場面に恐怖を感じていただけたというのは、僕としてはすごく正しい解釈だと思いますし、また別の解釈も持つ方もいらっしゃると思います。
 
司会:あのような映像は集めたものですか、それとも撮りに行ったものですか。
 
監督:今回は、様々な映像を使っていますので、いろいろな映像が次々に出てくるという表現になっていますね。
 
司会:主人公の頭の中の飽和状態がすごく表現されていましたよね。
 
監督:それは僕自身もそうです。僕が実際に感じている、情報が多すぎる社会の中の一人の孤独な人間を描こうとして、このような表現になったということです。
 
Q:主人公のキャラクター造形についてお伺いしたいのですが、家や車があり東京ではあまり見ないようなお住まいでしたが、家族関係の描写がなかったのは間違いないですか。
 
監督:描写はないですね、一人で孤独に暮らしている人間が主人公の設定です。
 
Q:主人公の心情を読み解くうえで鍵になると思うのですが、主人公に家族がいるのにも関わらず、いないように撮っていたのか、そもそも主人公には家族のいないのか、キャラクター構造の経緯がわかると面白いかなと思いました。
 
司会:蔦や苔が生えた家の一階に車が二台停まっていたので、私も、もしかしたら家族はいるけど孤独な存在なのかと想像を膨らませていました。
 
監督:撮影した家は、樂くんの実家なのですが、シトロエン(の車)が二台置いてあって、最初は意見が出るだろうと思い、ブルーシートを被せようかなとも思いました。でも、逆におかしいなと思ってそのままにしました。樂くん、あのシトロエンって動かないんだよね?
 
今村さん:直せば動きますね。
 
監督:そうか(笑)。まあ、そんな風に使用しております(笑)。
 
司会:家族設定は一人と想像してもいいし、家族がいると想像してくれても構わないということですか。
 
監督:そうですね。パンフレットとかプログラムには家族は存在せず、一人で暮らしていると書いてありますので、一人で暮らしていると解釈していただいて構いません。
 
司会:前作の『七日』という作品では、渡辺監督も出演されていて、それも無言のお芝居でした。あの作品の中で、こたつに座られていたお婆さまは、渡辺監督の実際のお婆さまなんですよね。
 
監督:そうですね、99歳になった僕のお婆ちゃんが出演しています(笑)。
 
司会:前作では、お婆さまがよく喋られていて、今回は渡辺監督がよくしゃべる役で主人公が喋らない役でしたが、喋らないことに対しどのような部分に魅力を感じていますか。また、お互いが喋ることなく、対極的な役を作ることによって、どのような部分をにじませようとしたのでしょうか。
 
監督:『七日』の時も今回も、言葉の意味を説明したくないので主人公は喋らない設定にしてあります。結局、僕のキャラクターは喋り倒すキャラクターと設定してありますが、コンセプトとしては、意味を持たない言葉をしゃべり続ける人間というように描こうとしていました。
 
司会:そして舞台がプールサイドということで、スポットはプールで働いている男性に当たっていますが、この設定を選ばれた理由を教えてください。
 
監督:僕が、実際にあそこのプールで働いていた経緯があり、『七日』を撮っている時点でプール監視員の話を撮りたいなという話を弟とすでにしておりまして、それを実現させた形です。
 
司会:このタイトルに意味はありますか。これも皆さんの受け取り方次第ですか。
 
監督:最初はプールサイドの男とかそうゆうタイトルにしようと思っていたのですが、あまりにも味気ないし、そのままの意味に取られたら面白くないと思って、プールサイドマンというタイトルを思い付いたので、現在のタイトルを付けました。
 
司会:少しメインの流れから外側にいるようにも思えますね。
 
監督:基本的にはそうですね。プールの守衛にいるというか、プールサイドにいるというような、中心の外側にいる人間という意味を込めています。
 
司会:(雄司さんに)毎年聞かれているかと思うのですが、ご兄弟で作業をされていることの良さと大変さはありますか。
 
雄司さん:本来の映画の製作はすごく大変だと思うのですが、スタッフがここにいる人たちで全員なんですよね。カメラを持って少し録音をして、俳優さんを連れて行けばそのまま撮れるということで動きやすいということもありますし、3人でずっと撮っているので、逆に大変さを感じないですね。
 
司会:意見の相違や、お金の使い道などで対立をすることはないですか。
 
監督:そもそもお金がないので、お金に関して争うことは全くないです。むしろそれが課題だねって言ってくれる人もいます。だんだんこの体制に慣れてきてしまったという部分もあるのですが、『そして泥船はゆく』という一作目を撮ったときはスタッフが4人で、こんなことで映画を完成させられるのかという不安から始まりましたが、完成させ、『七日』という映画も3人で完成させ、今回の作品も基本メインスタッフは3人でした。あまりにも縮小化していくのは恐ろしいので、そこが僕たちの課題かなと思います。
 
司会:去年、『七日』の時にもお伺いしたのですが、ずばり今回の予算はどれくらいだったのでしょうか。『七日』の時よりも増えましたか、減りましたか。
 
監督:予算は、自慢にはなりませんが現場費は0円です。基本的には10日間なり、2週間なりの撮影期間の食費と光熱費と生活費みたいなものが主でした。
 
司会:プールでの撮影はどこで行いましたか。
 
監督:プールでの撮影は、栃木県大田原市教育委員会様の、全面的に教育委員会のお陰で行うことができました。なぜ教育委員会の方に協力していただけたのかはわからないですが、本当に全面協力をしてくださいました。あの施設を使っていいよということで開放してくださったことは本当に助かりました。
 
司会:少ないお金でも頑張って作品を完成して、TIFFでこうして大きな画面で見てもらえて、今後また世界の映画祭にもアプローチして公開にこぎつけたいですか。
 
監督:そうですね。昨年も言ったかもしれないですけれども、低予算だからこそいろいろ工夫を凝らし、思いつくこともありますので、逆境にいるから生まれる表現もあると思います。
 
司会:今村さん、主演されて音楽だけではなく、演技の道にも目覚めた感じはありますか。
 
今村さん:いや、どうでしょうか…(笑)
 
司会:樂さんは、本当に画面とはちがいますね!
 
監督:そうですね。彼は、非常に誠実でまじめで優しい男です。だからこそ、あのような狂気じみた演技ができるのだと思います。
 
Q:僕は最近、ボブ・ディランと沈黙を考えていました。ディランは、ノーベル賞を受けても口を開くことはなく、余計なことを話すことはせずにすべて詩の中で表現するという部分があるように感じています。先ほど監督のお話を聞いて共通する点があるのではないかと思いました。監督的に思う点、通じる点があればお聞きしたいです。
 
監督:ビートルズにしてもディランにしても、音楽だけで自分の表現をするその姿勢を貫いているという方々だと思っています。僕はあまりQ&Aとかは得意ではなく、質問をされても困ってしまうことも多く、いい加減なことを皆さんに話しているようで申し訳ないのですが、基本的には言いたいことは映画で伝えているので、この映画もそうですし、今後の映画も言いたいことは映画で表現できるのがベストかなと思っています。
 
Q:やっぱり「ONE PIECE」よりも「ドラゴンボール」派ですか。
 
監督:そうですね。「ONE PIECE」も好きですよ。でも、この話をすると長くなるので…(笑)。

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