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2016.11.03 [インタビュー]
『ビッグ・ビッグ・ワールド』監督&プロデューサーが観客に望むこと
ビッグ・ビッグ・ワールド  
レハ・エルデム監督の新作「ビッグ・ビッグ・ワールド」が第29回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映され、来日した監督とプロデューサー兼プロダクション・デザイナーのオマル・アタイに話をうかがった。本作は孤児の兄妹アリとズハルの物語。アリが犯した事件を機に兄妹は人里離れた森に移り住む。やがてアリが働きに出て、ズハルは時に動物や狂人が姿を現す森で兄の帰りを待ち続けるが…。鮮烈な映像美で全てが夢のように推移するなか、人間の奥底に眠る愛への欲求が浮かびあがる作品だ。
 
──画家が絵を描くような心持ちで作られた映画なのではありませんか?
 
レハ・エルデム監督(以下、エルデム監督):そうなのかもしれません。ストーリーはあっても、ストーリーを越えた先に「世界」があるのです。それは言葉では説明できず、絵にしてみて初めて感じられる類のものです。私はそういう映画が大好きですし、自分でもそんな映画を作りたいと思っています。
 
──白い布を顔にかけた少女、枯葉に埋もれた死体など、さまざまな絵画的イメージがちりばめられています。
 
エルデム監督:映画というものはそもそも絵でできています。映画自体が「動く絵」ですから。そのなかに個々のイメージを生みだしていくのです。この場面はこうだからと、ひとつの意味を持たせることはしたくありません。台詞に関しても同様で、意味はあってないようなもの。それでも、ひとつの言葉も無駄ではありません。つまり、あるがままの音と映像を受け止めてくれたらよいわけで、場面の意味を限定させることはしたくない。その全てが結びついて映画になるのです。
 
──なぜ孤児の兄妹を描こうと思ったのでしょう?
 
エルデム監督:どこにも帰属しない、根無し草の人間を見つめたかったからです。映画では周囲の人間が兄妹の過去をほのめかしますが、彼ら自身は自分たちの過去を知りません。そこに惹かれました。
 
──映画では殺人や快楽への耽溺、窃盗行為が、愛することにつきまとう宿命であるかのように描かれます。もっぱら兄のアリが罪を犯す設定になっているのはなぜですか?
 
エルデム監督:なるほど、そういう風には見ていませんでしたがたしかにそうですね。兄のアリは生きるための適応力に乏しく、道を踏み外しがちになる。一方、妹のズハルは森への適応力も高く、新しい人生に対しても適応力がある。アリはさまざまな困難に晒され、ズハルの境地にようやくたどり着きます。ズハルは森に適応して山羊を「パパ」と呼びますが、アリがそう呼ぶのはずっと後の話です。その間、彼は多くのものを失うことになるのです。
 
──上映後のQ&Aで、監督は一貫して森や動物に象徴性はないと否定していました。森そのもの、動物そのものを描いたのだと。
 
エルデム監督:象徴自体がなにか意味を持つことはありません。象徴とは、観客がそれぞれの人生に置き換えて解釈して、はじめて意味を持つものです。もちろん私が頭のなかで考えた事柄はありますが、それを必ずしも説明しようとは思いません。人それぞれ異なる意見を持つことが素晴らしいのです。
 
──アタイさんは、ふだん監督とどんなふうに仕事をされているのですか?
 
オメル・アタイ(以下、アタイ):ふたりで映画を見ながら短い打ち合わせをし、互いに想像を膨らませます。ロケをしたい空間や場所、なすべき事柄、いろんな考えを捻りだします。その後、さらに衣装、大道具、小道具などのさまざまな打ち合わせを綿密に行います。「ビッグ・ビッグ・ワールド」を絵画のような作品というのは、そのとおりだと思います。これは「マイ・オンリー・サンシャイン」(08)や「コスモス」(10)に連なる絵画的な作品なのです。
 
──本作に登場する森は沼地のある小宇宙のような空間ですね。
 
アタイ:今回ロケをしたのは、イネアダという辺境の町にあるロンゴズの森(Longoz Ormanlari)です。ここは世界でもアフリカ、アメリカ、トルコの3か国にしか見られない氾濫原の森林です。撮影はとても大変で、毎日バスやボートを乗り継いで、往復4時間もかけてロケ地に行きました。長年一緒にやっているスタッフは家族を宿泊先に連れてきて、まるでひとつの大家族のようでした。情熱がなければできないことで、やり遂げられてよかったです。
 
──アリの着る服が単色なのに対して、ズハルの服には色彩やコントラストがあります。
 
エルデム:脚本が完成した後、アタイは特にズハルの衣装について靴の模様にいたるまで何日もかけて検討していました。ズハルの脱げた靴がアップで映るカットがあります。これを見て泣いたという観客の感想を聞いた時には感動しました。彼が細部まで頑張ってくれたおかげです。いつも素晴らしい仕事をしてくれますよ。しこたま飲む奴ですけどね(笑)。
 
(取材/構成 赤塚成人)  
 
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