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2016.11.07 [イベントレポート]
「今までにない日本映画を、今の日本を描こうと思って作りました。」コンペティション『アズミ・ハルコは行方不明』-10/30(日):Q&A

アズミ・ハルコは行方不明

©2016 TIFF

10/30(日)、コンペティション部門『アズミ・ハルコは行方不明』の上映後、松居大悟監督太賀さん(俳優)、葉山奨之さん(俳優)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
松居大悟監督(以下、監督):ありがとうございます。こんなに大きな画面でこんなにたくさんの人に観てもらえるとすごい興奮しますね。
 
司会:改めましてみなさまにご挨拶の言葉を頂戴できますでしょうか?
 
監督:この今の時代の日本でしか描けないことって何だろうと考えて作りました。その作品が、東京国際映画祭の舞台でみなさんに見てもらえることはとても嬉しいです。今日はよろしくお願いします。
 
太賀さん(以下、太賀さん):富樫ユキオ役を演じました太賀です。「アズミ・ハルコ」が世界中の作品と肩を並べて東京国際映画祭のコンペティションで上映できることをとても嬉しく思っています。今日はよろしくお願い致します。
 
葉山奨之さん(以下、葉山さん):三橋学役をしました葉山奨之です。こんなに多くの人に観てもらえるとすごい緊張しますね。今日は楽しみたいと思います。よろしくお願いします。
 
司会:1つめは私の方からお伺いします。松井監督、これまで女性が主人公の映画を数本作られてきて、とても自然な流れで今作品が来たような気がします。この映画には、原作があるわけで、松居さんからこの原作を取り上げたいという風にアプローチしたのか、原作の方から松居さんにやって来たのか、経緯を教えていただけますか?
 
監督:ちょうど3年前に東京国際映画祭に参加した『自分の事ばかりで情けなくなるよ』という映画の公開時期に、プロデューサーの枝見さんという方が話しかけてくれました。僕とちょうど同い年なんですよね、それで同い年で何かやりたいよねって話をしていました。色々提案していると、ちょうど「アズミ・ハルコは行方不明」という小説が刊行されて、それを読んだ時に当時28歳だったのですけど、主人公も僕らも、これは自分たちの世代で作らなければいけないんじゃないかと思いました。あとは行方不明になること、そして、存在が無くなっているのにどんどんグラフィティによって存在が拡散していくことってすごく映像的であり、さらに、行方不明という言葉が違う風に伝わるような気がしました。すごく肯定的なというか、言葉にとらわれるような流れがあるというか。ニュースとかもそっちの情報に引っ張られたりするから。その情報の向こう側のものを描けるような気がしました。
 
Q:すごい活力のある映画で唖然とした所もありますが、今回女性の映画ということで、どういう経緯で女優さんを選ばれたのか教えていただきたいです。
 
監督:蒼井 優さんに関して言うと、僕とプロデューサーと同い年なんですよね。僕にとって同郷で、元々子供の頃から映画などで見ていた存在だったということもそうなんですけれども、ステンシルにした時に「あっ、この人だ、この人だ」と、顔にすごく力を持っている人ということで蒼井さんにオファーしました。
 
Q:蒼井さんはすぐにOKしましたか?
 
監督:そうですね、ちょっとだけやりとりはあったのですけども、生産的なやりとりです。
 
Q:高畑充希さんは?
 
監督:高畑さんはもともと一緒にミュージックビデオの仕事をしてたんです。”愛菜”って役が頭が良くない子なのですけど、高畑さんてすごく頭が良いんです。ずっと舞台をやっていたからなんですけど、役を掴んでお芝居をするタイプだから、こんなに役を掴めないと言うか、高畑さんにとって一番遠い存在な役柄って面白いなって思って選びました。加えて、蒼井 優さんと対峙するというか、同じように力を持つ人じゃないと拮抗しないなっていう理由で、高畑さんしかいないなと思いました。
 
Q:松井監督の作品がすごく好きで、女子高生がモデルの場合、毎回すごく強い感じの女性だなっていう印象を受けるのですが、何か着想点とか女子高生に対するイメージがありますか。
 
監督:個人的に中高は男子校で女子高生と関わる機会が一切無く、未だに女子高生のことはほんとによくわからない。多分、自分にとっては一番遠い存在のような気がしていて、だからこそ何でもできるというか、逆に男子高生は気持ちが分かりすぎるから何も動かせられないから、殻から出られない。女子高生はこっちが提案してそれを俳優陣に命を吹き込んでもらうことができますし、この映画に登場する世代はアラサーと20代と女子高生なので、20代の”愛菜”たちとまた違うパワーを持っていないといけないっていうので、いつもより理屈ではない、とにかく私たちの居場所がココだと言ったらココなんだ!みたいなそういう最強なものをイメージして作りました。
 
司会:30代と女子高生の話が出ました。太賀さんと葉山さんにお尋ねしたいのが、最初の成人式のシーンで、言葉が悪いのですけど、醜悪さがすごくて、あぁでもこれがリアルかなという風に思いながらもかなりショックを受けました。お二人はあの世代に対する共感を持って演じられたのか、どのような思いであの年代を演じられた、あるいは、そういう土地で暮らす人々に対する共感のような、あるいは反発のような気持ちがあったら教えていただきたいのですが。
 
太賀:僕は、”ユキオ”を演じる上で、”ユキオ”の、この町じゃない、ここじゃない、もっと違う所に行きたいとか、何か漠然と大きなことをやりたい、大物になりたいとか、自分とは違う何かになりたいという気持ちは、彼独自の衝動ではないような気がしていました。何か新しい興味とか分かりやすく楽しいものにすぐ飛びついて、自分をそういった何かで纏って、というのは誰しもがあるような弱さだと思います。人の強い部分よりも弱い部分の方が僕は共感できるので、今の自分は色んなことを考えて経験して少しずつ成長しているのかもしれないけど、でも、そういう”ユキオ”らしい弱さや芯のなさが自分にもあったんじゃないかと思い、そこを手繰り寄せてくように”ユキオ”を作っていったように思います。
 
葉山:僕も今20歳で、自分が演じた”三橋 学”と同年代です。そのまんまなので、役作りとかそういうのじゃなく、エネルギーが余っているのでそれを何かにぶつけるというのが今の若い役者の象徴じゃないかと思って、それをぶつけたのかなと思いますね。まんま生きてれば面白いのかなって思いますし、若者ってとりあえず騒がしいじゃないですか、その騒がしさを少しでも映画に出せたらなっていうのは演じている時に意識していましたね。
 
Q:とても刺激的な作品でした。私も今20歳で、同じ年代に色んな人がいるんだなって思いながら観ていました。女性の社会的問題についてお聞きしたいです。
 
監督:僕は男なので女性の世代としてどういう思いを抱えていて、どういうストレスがあるとかが分からなかったんですけど、今回の企画は原作者やプロデューサー、脚本家、編集者、主演2人が女性で、そういう人たちに意見をもらいながら作りました。僕にとっては女子高生から”吉澤さん”まで、40歳くらいまでのこの20年、25年がすごく自分にとっての居場所、叫んだ場所が居場所だっていうのだったり、どっか足掻いて自分の存在証明をしようとする”愛菜”たちがいたり、居場所が無いから消えようとしてしまう”春子”だったり、そうではなく、でも生きていくんだよって思う”吉澤さん”がいたりして、すごくグルグルグルグル回るような気がしてて。男は逆に、まだ”ユキオ”たちのまんまというか、一生かけて一周するのを、女性は三周ぐらいしているような気がしてて、そこに関しては違いがはっきり出るようにと意識しました。やっぱり男から与えられるレッテルとか、決めつけられることに対するストレスを受ける中で生きている女性はすごく強いんだなということをひしひしと実感していました。
 
Q:地方都市を舞台とした狙いと、時間経過が前後してぐるぐると回っているような映像展開をした狙いを教えてください。
 
監督:1つ目の地方都市を舞台にした理由は、原作がそうであったことに加えて、東京では楽しいことがたくさんあって、選択肢が多いけど、地方では何もやることがない中での選択をすることとか、僕自身も地方出身なので国道沿いの景色をそんなに見てもいないはずなのに、なぜかあの時の、すべて揃っているのに何もないというような匂いがすごく印象的で、そういうことがこの映画に繋がるかなと思ったのでそうしました。
時間軸を交錯させた理由は、原作は時間通りに物語が展開していって、それは文字で読んだ時は良かったのですけれども、映像としてそれを見たときに、行方不明になることが理屈で通ってしまいそうになったんですね。僕はこの映画にとって行方不明になった理由や理屈は必要なくて、ただただ感覚的に映画を感じてほしいなという思いがあって、エピソードを全部短尺で切って感覚的にこれとこれがこう繋がっていったほうが良いというように構築していく作業を30回以上やっていました。プロデューサー、脚本家と脚本を15回、編集を15回くらいやって、だから何が正解なんだと途中思ったんですけれども、今日観た時に、これで間違いはないなと思いました。なので、時間軸を交錯させたのは、理屈で見てほしくなくて、分からないことがあっても良いという思いで作りました。
 
Q:男性陣のキャストの起用した理由と、太賀さんと葉山さんから見た監督の印象を聞かせていただきたいです。
 
監督:太賀はよく一緒にやっていましたので、原作で、”ユキオ”は地方都市の名古屋から出戻りして偉そうにしている、という箇所を読んだ時に太賀がいいなと思いました。もともとユキオは逆なんじゃないかっていう意見もあったんですよ。でも”ユキオ”がシュッとしていたらすごい嫌な奴になると思って、シュッとしてない方をユキオにしようと思ったんです。
奨之を起用した理由は、”学”がもともと何かを抱えていて、でも本当は特に何も抱えていないような役なんですけど、そういう風に純粋に思いこんじゃうような人っていうのがいいかなと思って、ちょっとピュアそうに見えるというか、それにのめり込んじゃったら出られなくなるような。そういう人を探していた時に、奨之のドラマなどを見てすごく興味を持って。今回初めてだったんですけれども、それで彼を呼びました。
石崎ひゅーいくんに関しては、彼はミュージシャンで今回お芝居するのは初めてなんですが、蒼井 優さんの相手役として、役者が地方から抜け出そうと思うことすらせずに生きているというこの危機感のなさは、役作りで出すよりも、動物のような人がここに入った方がなにか面白いんじゃないかなと思ったときにちょうど出会いました。彼には、リスのようなときもあればライオンのようなときもあるというような、人間としての魅力があったので無理やり引きずりこみました。
 
司会:それではお二人の番ですが、本音で大丈夫だと思います。
 
太賀さん:監督は、自身が考えて出した結論のようなものを、実は自分自身そんなに信じていないんじゃないかなっていう時があって。というのは常にまた違う新しい心理があるんじゃないかと疑い続けてるというか、だから現場で監督と物語を作っていくと、僕自身も役を演じる時に、自分で出した答えを結構疑ってしまうんですよ。でも監督自身も自分が出した答えをもしかしたら疑っていて、一緒にぐるぐる考えていける時間がすごくあって。例えば監督にユキオって役はこうかもしれないんですけどどう思いますか?と聞いたときに一緒になって歩みを止めて立ち止まって考えてくれるというのはこの作品の時は特に感じて、そうやって一緒に映画を作っていったという印象がありますね。
 
葉山さん:僕は今回松居さんと初めてで、いい意味で監督っぽくないなとすごく思って。僕は松居以外の作品の現場で監督と喋る時は緊張するのですが、そういう緊張感もなく普通に友達っぽく喋れたので、こういう監督もいるんだなと思いました。現場で僕が”学”ってどういう人間なんだろうということを話したりはしなかったですよね、役については。
 
監督:そうね。
 
葉山さん:僕が考える”学”のイメージを受け入れてくれるので、自分の考えを大切にしてくれる監督なんだなと思って、すごい現場は楽しかったです。あとは熱い監督なんだなっていうことを実感しましたね。見ていてすごい格好いいなと思って。僕とちょうど10歳差でしたっけ。
 
監督:そうね。
 
葉山さん:そうですよね。次の日本映画を支えていくというのを見ると、すごい格好いいなと思うんですよね。
 
監督:そんなこと一言も言ってなかったじゃないですか。
 
葉山さん:いやいやいや違うんです。この先松居さんはどんどんどんどん行くんだろうなって、見ているとああ松居大悟って格好いいなと思いながら、僕も一緒についていけたらなっていうのは現場では思いましたね。でも、現場にミンティアがないとブチ切れますよね。
 
監督:そうなんです、ミンティアが好きなんです(笑)。
 
司会:松居さんが次の日本映画を背負っていくのを信じているからこそ、コンペティションにお招きしましたので、葉山さんのお考えは正しいと思います。
 
葉山さん:良かったです、ありがとうございます。
 
司会:それでは松居さん、最後に締めの言葉をいただけますでしょうか。
 
監督:今までにない日本映画を、今の日本を描こうと思って作りました。なので、もしかしたら整理がつかないというか、でも僕はこうだから面白かったなんて言うのは気にしなくていいと思っています。ただ感覚的に何かやばいものを見たとか、整理のできない感覚のまま持ち帰ってもらって、それをだれかに伝えてもらったりしたら嬉しいです。12月に映画が公開するのですが、今日この日にこの同じ場所で一緒にその感覚を体験できて光栄です。あとWEBサイトでアプリを使っていただくと嬉しいです。みんなアズミ・ハルコになれるアプリとなっておりますので。
本当にありがとうございました。
 
『アズミ・ハルコは行方不明』:公式サイト
2016年12/3(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
アズミ・ハルコは行方不明

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