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2016.11.03 [インタビュー]
元タクシー運転手の青年が主演 経済発展著しいカンボジアの若者たちの日常描く『ダイアモンド・アイランド』
ダイアモンド・アイランド  
2012年第25回東京国際映画祭で、1960年代の黄金期のカンボジアの映画史に迫ったドキュメンタリー「ゴールデン・スランバーズ」を発表したカンボジア系フランス人のデイヴィ・シュー監督。今回、プノンペン郊外に位置する、外国資本による商業施設や高級コンドミニアムが立ち並ぶ新興開発エリアを舞台にした新作「ダイアモンド・アイランド」がワールド・フォーカス部門で上映された。経済発展著しいカンボジアの若者たちの日常をリアルに描いた作品だ。シュー監督が主演のヌオン・ソボンと共に作品を語った。
 
――本作製作のきっかけを教えてください。
 
デイヴィ・シュー監督:「ダイアモンド・アイランド」を見たときに、まず、映画的に面白い風景だと思ったのです。欧風の建築物が立ち並び、ドバイのような雰囲気もある。すべてがにせもののような感じで、ハリウッドの映画スタジオの中に立っているようだったのです。実際に足を運ぶと、若い青年が建築現場で働いていて、夜になると、彼らはおしゃれをしてバイクを乗り回している。彼らの目が、まるで夢を見ているようにキラキラと輝いているんです。彼らは一体、何を見ているのだろうと。彼らの目の中には、欲望や願いが込められており、その源は何かが知りたいと思ったのです。
 
――実際に、10代と思われるような若い人たちが建築現場で働いているのでしょうか。
 
シュー監督:ソボンに出会ったときは18歳で、彼が19歳のときに撮影し、2週間前に20歳になりました。彼はとても若く見えるんです(笑)。けれど実際、カンボジアの若者は建設現場だけでなく、運送業や露天商など環境的に厳しいさまざまな職業についてます。それしか生き延びるすべがないのです。
 
ソボン:実際に、14、5歳で働いている人ははたくさんいます。法律違反になるかもしれませんが、みな、家族を養うために働いています。
 
――ソボンを主演に選んだ理由を教えてください
 
シュー監督:リーダー役の青年を除いて、この作品の出演者みなアマチュアです。演技についてはリアリズムを追求したかったのです。できるだけリアルに演じて欲しかったし、登場人物たちと社会的な階層が同じような人を探したかったのです。プノンペンの工事現場や、ディスコなどを4~5カ月まわって、“夢見るような目”を持つ人たちを探し、たくさんの人に会って、話をしました。
 
ソボンはタクシー運転手をやっていました。私がプノンペンをバイクで走っているとき、彼が客待ちをしていた姿が気になり、カメラテストに参加するように声をかけました。彼はとてもシャイでしたが、キャラクター自身がシャイな設定だったのでそれがよかったのです。カメラテストの際に「外国人に映画に出て欲しいと言われるなんて、だまされているに違いないと家族に言われたから、自分の力を試したくなった」と話してくれ、彼の熱意も感じたので、主演をお願いしました。
 
――俳優の経験、日本の印象はどうですか?
 
ソボン:まさか自分が映画に出るとは考えていなかったので、苦労することも多かったですが、その作品が世界中で上映されてわくわくしています。東京に来て、見たことのないような高いビルを見て驚いています。
 
――ポル・ポト時代を知らない世代ですね。今のあなたのカンボジアでの暮らしはどうですか?
 
ソボン:僕はポル・ポト時代を全く知りませんが、数年前まで生活はかなり苦しかったです。祖母に薦められて、中国語を習いました。中国人の建設現場で通訳をするという仕事をしていました。その後、さらに中国語を勉強するために、半日中国語の学校で勉強をし、半日タクシーの運転手をするという生活を送っていました。将来のことはまだわかりません。もし演技をする機会に恵まれたら、もちろんまたやってみたいですが、そういうチャンスがなければまた普通の仕事に戻ります。
 
――青年たちが生き生きと描かれていることが印象的です。
 
シュー監督:この作品は、登場人物たちの視点と、外部者である私の視点が組み合わさっている物語です。建設現場の作業員というと、貧乏で厳しい環境で働く労働者だという偏見を持ってしまうと思うのです。しかし、そういう負の面だけではないと思いますし、悲しさが前面に押し出されるような見せ方はしたくなかったのです。生きていれば、厳しい生活であっても愛を見つけなければいけませんし、愛することを学ぶという、人生の楽しい部分を見つけることを描きたかったのです。悲しい部分だけを切り取ると、映画作家として上から目線、情けをかけているように感じられると思うのです。でも、現状を生きている若者たちは、情けをかけて欲しいわけではない。自分の生き方に誇りを持っているし、人生を試したいと思っている。そこが重要だったのです。
 
――今後もカンボジアをテーマにした映画を作られる予定ですか?
 
シュー監督:ここ2~3年は主にカンボジアにいました。今はこの作品のフランスでの公開準備のためにフランスにいますが次回作については未定です。今後は、プロデューサーとしてカンボジアの新しい才能の発掘もしていきたいと思い、これからもカンボジアとは関わっていく予定です。近いうちに、プノンペンの低中所得層が住む歴史的建造物「ホワイトビルディング」で生まれた若い監督が、その建物についての作品を発表する予定です。短編やテレビ向けの作品を作っている若者は多いのですが、映画学校がないので、フィルムコミッションがカメラの使い方を教えたり、コミュニティのなかでお互いに切磋琢磨している状況です。カンボジアの映画業界がどういう方向に進むのかも鍵となると思います。インディペンデント系で自分たちの声が上げられるような場所も発展していって欲しいと思います。  
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