第29回東京国際映画祭の授賞式が11月3日、東京・六本木のEXシアターで行われ、ドイツ・オーストリアの合作映画「ブルーム・オヴ・イエスタディ」が東京グランプリに輝き、幕を閉じた。
コンペティション部門のジャン=ジャック・ベネックス審査委員長から祝福されたクリス・クラウス監督は、「非現実的でシュールな気分です。ベネックス氏と同じ場に立てるだなんて……。19~20歳の頃、彼の映画を見ていたんです。夢がかなった気分です」と感無量の面持ちを浮かべた。「ブルーム・オヴ・イエスタディ」は、ホロコーストのイベントを企画する研究者が、強引な性格を理由に担当を外される。納得のいかない男は、風変りなフランス人インターン女性と独自に準備を続けるが、やがて意外な事実に行き当たる。ホロコーストという歴史に新たに向き合う世代を、ユーモアや恋愛を交えながら描いている。
この日は、小池百合子東京都知事も登壇。クラウス監督と力強く握手を交わすと、「毎年多くの逸材が、この映画祭から羽ばたいていくことを嬉しく思います。東京国際映画祭への支出予算は、昨年よりも増やしております。つまり、必要なところにはお金をかけるということです」とアピールを忘れず、客席からの喝さいを浴びていた。
授賞式が最も沸いたのは、「ダイ・ビューティフル」のパオロ・バレステロスが最優秀男優賞の受賞時。観客賞にも輝いた同作、授賞式にはジュン・ロブレス・ラナ監督だけが参加する予定だったが、トランスジェンダーの主人公トリシャを演じたバレステロスがドレスアップして現れると、場内は大喜びだ。
バレステロスは涙ながらにトロフィーを受け取り、「女優賞をとるんじゃないかと思っていました」とおどけてみせた。それでも声を詰まらせながら、「監督が僕を信じてくれて、僕に役を任せてくれたおかげ。すべての関係者にありがとうを伝えたいと思います」と胸中を明かした。
また、日本映画スプラッシュ部門の作品賞を戴冠した「プールサイドマン」の渡辺紘文監督も、涙をこらえることができなかった。登壇すると、「本当にまさか……ですよ。僕を育ててくれたのは、デビュー作を上映してくれた東京国際映画祭です。そして、東京国際映画祭のお客様のおかげだと思います。本当に感謝しかありません」と喜びをかみ締めた。
椎名保ディレクター・ジェネラルは、今年のエントリーが1502本に及んだことに触れ「私は映画祭にかかわるようになって、映画祭は映画作りと同じだなと感じるようになりました。役者が最大のパフォーマンスを発揮できるよう、現場ではたくさんの人がかかわっています。いずれも、作品が主役なんです」と力説。そして、「来年は30回を迎えます。また皆様とお目にかかれることを願いながら、締めくくろうと思います」と語り、深々と頭を下げた。
全受賞結果は以下の通り。
コンペティション部門
▼東京グランプリ:「ブルーム・オヴ・イエスタディ」
▼審査員特別賞:「サーミ・ブラッド」
▼最優秀監督賞:ハナ・ユシッチ監督(「私に構わないで」)
▼最優秀女優賞:レーネ=セシリア・スパルロク(「サーミ・ブラッド」)
▼最優秀男優賞:パオロ・バレステロス(「ダイ・ビューティフル」)
▼最優秀芸術貢献賞:「ミスター・ノー・プロブレム」
▼WOWOW賞:「ブルーム・オヴ・イエスタデイ」
▼観客賞:「ダイ・ビューティフル」
アジアの未来部門
▼作品賞:「バードショット」
▼国際交流基金アジアセンター特別賞:「ブルカの中の口紅」(アランクリター・シュリーワースタウ監督)
日本映画スプラッシュ部門
▼作品賞:「プールサイドマン」