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2016.11.03 [イベントレポート]
「悲劇的なことや沈黙よりも、ユーモアで思い出を作りたかった」コンペティション『ダイ・ビューティフル』-11/2(水):Q&A

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©2016 TIFF

11/2(水)、コンペティション『ダイ・ビューティフル』の上映後、ジュン・ロブレス・ラナさん(監督/プロデューサー/原案)、ペルシ・インタランさん(エグゼクティブ・プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
司会:最初に一言ずつご挨拶をお願いします。
 
ジュン・ロブレス・ラナ監督(以下、監督):皆様、本日ここにいらしてくださいまして、ありがとうございました。
そして、私は今ちょっと悲しい気持ちがしております。というのも、今回この映画祭にまいりまして、皆様から本当に温かい気持ちで迎え入れていただいて、楽しい毎日を過ごしておりました。これがこの作品の最後の上映になりまして、映画祭も終わりということで、寂しい気持ちです。
 
ペルシ・インタランさん(以下、インタランさん):皆様、今日は遅い時間まで見ていただきまして、本当にありがとうございます。実は私たちも、今回2回しかこの作品を観ておりません。ワールド・プレミアでお目にかけたこの作品は、本国でも上映されていないということで、私も2回目で、まだとても感動している気持ちなんです。
 
Q:人が自分らしく生きることの難しさ、大切さを非常に語った映画だと思います。ぜひ監督の口からこの映画に込めた想いを聞かせてください。
 
監督:この映画のアイデアそのものは、2014年にトランスジェンダーの女性が殺されてしまったことです。そのときの社会の反応が非常に残酷というか、「そういう人が殺されるのは当たり前ではないのか」という言葉があちこちで聞かれたわけです。私はゲイの人間として、またフィルム・メイカーとして、そういう事件があったときに自分の責任があるのではないかと、コミュニティの代表としてこういうものを世に出さなければならないのではないかということで、映画の最初のアイデアを思いつきました。
そして、もちろんテーマはたくさんあるんです。例えば、死、生きるということ、あるいは人を許すこと。それから人に対する思いやり、あるいは若くして命がなくなっていてもまだプラスの思考があるということ。もちろん愛というテーマもあります。そういう様々なテーマが、この作品の中に込められています。
 
Q:回想の時系列がかなり飛び飛びになっている映画でした。そういう手法を取られたことにはどんな意図があったのでしょうか。
 
監督:この映画を撮るとき、あるいはこの映画の構造を考えるうえで、私の友人が最近亡くなったときのことがありました。日本でいうお通夜のような場所でその友達の思い出を振り返ったときに、必ずしも思い出というのは時系列の順番で自分の頭の中に蘇ってくるものではないんですね。どちらかというと、とても楽しかったこと、ハイライト的なことが、先に頭に浮かんできます。私は悲しいこと、悲劇的なこと、あるいは沈黙よりも、ユーモアで思い出を作りたかったということがあります。
今回の新しい撮り方は、自分自身がモノを作るうえで自分がちょっと解放されるような、自由になるような手法だと思いました。新しいことを試したいという気持ちもありましたので、今回はそういう手法で映画を作ってみました。
 
Q:メイクがひとつの見どころですが、そのメイクアップをした方はどんな方ですか?、アンジェリーナ・ジョリーやジュリア・ロバーツなどの著名な方々についても出てきましたが、それは監督と一緒に考えられたのかをお伺いしたいです。
 
監督:主演のパオロさんが全部ご自分でメイクはされています。本国では、メイクアップのスキル、才能で大変有名な方です。ショーもされています。
彼はひとりの有名人になるために3~4時間かけてメイクアップをされるんですね。それだけ時間がかかりますので、撮影のときにはそれが問題にもなりますが、やはり彼の才能が素晴らしいということです。ご家族の方が絵を描かれることもありまして、自分の顔をキャンパスのように使ってひとりの別人に変身するという、非常に才能がある方です。
私は脚本が書きあがったときに、もちろんパオロのことは知っていましたけれども、メイクアップができるという理由で、彼を選んだわけではありません。もちろん彼のことは浮かびましたが、実際に脚本を読んでいただいて、それで選んだわけなんですね。
もちろん、俳優さんで、ご自分でメイクアップをやっていただけるので、そこはお金をセーブできたということはあるんですけれども(笑)。とにかく、素晴らしいメイクの腕がある方です。とても才能がある方です。
 
司会:登場するセレブリティの選択はパオロさんですか、ジュンさんですか。
 
監督:一人が選んだわけではなく、話し合って決めました。もちろんセレブの中には変身しやすい方もいますが、それだけでなく、例えばジュリア・ロバーツさんのように映画の中のテーマに合っているという理由で選んだ方もいます。また、映画の中のテーマとして必要だと思って選んだ方もいます。非常にランダムな形で選択しました。
 
Q:なかなか日本では観られないような作品だったので、本当に興味深く見ていました。最後のシーンですが、どういったイメージでああいったメイクにして締めくくったのでしょうか。
 
監督:映画はコンテストの場面、トリシャが若かった頃から始まります。映画の構造として、ブックエンドのように最初と最後を挟み込むような形で作りたかったのですが、やはり最後の部分はトランスジェンダーにとって天国のような、とても楽しく、ハッピーで、そして美しく、優雅で、豪華な、そういうようなイメージを作りたいと思い、あのような形にしました。
また、カメラに向いているのは、みなさんに向かっていると見せたかったという意図があります。彼女のありのままを受け入れてもらえることを望んでいるという姿勢を最後に見せたかったのです。
 
Q:メイクもそうですが、画面の隅々まで色彩の感覚がとても素晴らしかったです。照明も含めて色彩に関する考え方をお聞かせください。
 
監督:この映画を撮り始めた頃は手持ちカメラで撮っていました。私は映画を作る時に登場人物に対してとても強い愛を感じて作っています。そして、撮っているなかでは、彼女が私にこういう風にしてほしいだろうと感じながら撮っているわけです。彼女はすべての場面で美しくありたい、美しさを覚えていてほしいという気持ちがすごく強いわけで、撮影監督のメンドーサさんと相談して最終的に様々な色の使い方をしてこういう風に作りました。すべてのフレームで、すべての人生において最も美しく見える形で構成しました。
 
Q:今回のストーリーを考えるきっかけが実際にあった事件に対するSNSなどの批判だったとのことですが、この作品は本国で上映できるのでしょうか。また、上映した際にどのような反応があると思いますか。また、俳優たちにゲイ役の出演を依頼したときの反応はどうでしたか。
 
監督:12月に開催されるメトロマニラ映画祭に出品予定で、それに選ばれると、その後に上映される可能性があります。
とても幸運なことに、この作品のプロジェクトが発表された時に非常に多くの方がオーディションに来てくださいました。私の考えていることを共有してくださる方がたくさんいらっしゃったからだと思っています。また、プラス思考をもって、いろいろなことを言われながらも自分たちを信じて、このプロジェクトに参加したいという気持ちの方が大きかったために、多くの方がオーディションに来てくださったのだと思います。
 
司会:このようなサブジェクトを扱った作品が公開しにくいような状況がフィリピンの映画マーケットにはあるのでしょうか。
 
インタランさん:多くの方に見ていただくということを考えると、本国では難しい状況は確かにあります。ただ、全部の方が反対というわけではなく、国の中にはとても心がオープンで、今回のように主演がLGBTの方でもそういう新しいものを見たいという気持ちを持っている方もいるのは確かです。
今までのこういう作品は、どちらかというとコメディ的な要素が多いものが主流だったと思いますけれども、今回はもっと深くLGBTの方の人生や心の中に踏み込んだ作品になっております。そういった意味では、ドラマ性もあり、ユーモアたっぷりな新しい作品になっていると思います。メトロマニラ映画祭がきっかけとなって、多くの方に見ていただけることを心から願っております。
 
司会:日本の映画会社もざわついております。日本の公開も本当に楽しみです。
 
監督:今、胸がいっぱいです。本当にありがとうごいます。この映画は私にとって個人的な意味がたくさんある作品です。パオロさんがとても感情的でいつも泣いてしまうので、私は彼と同じように泣いてはいけないと思いながらも、今本当に胸がいっぱいです。やはり本国で多くの方にこういうストーリーを見ていただきたいという強い気持ちがあります。そして、みなさんに受け入れていただきたいです。ですので、日本の観客の方、そして映画祭に心から感謝しています。

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