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2016.11.10 [インタビュー]
「映画祭のなかからひとつでも多くの作品が世に出ることが重要です。」コンペティション部門審査委員長ジャン=ジャック・ベネックス監督-11/3(木)公式インタビュー

審査委員長ジャン=ジャック・ベネックス監督

©2016 TIFF

 
ホロコーストの悲劇にラブコメ要素を織り込んだ『ブルーム・オヴ・イエスタディ』が東京グランプリを獲得し、スウェーデンのサーミ人にスポットを当てた『サーミ・ブラッド』が審査委員特別賞と最優秀女優賞をダブル受賞。盛況のうちに幕を閉じた第29回東京国際映画祭のコンペティションで上映された16作品から、各賞を選出した審査委員長ジャン=ジャック・ベネックス監督に選考のプロセスを伺った。
 
 
――まずは、審査を終了しての感想は?
ジャン=ジャック・ベネックス審査委員長(以下、ベネックス):違ったシチュエーション、違った文化、違った悩みなど…。それそれの興味深い視点で描かれた映画を見て、やはり映画は時代の証人であると再認識しました。そして、グローバリゼーション、普遍的な側面が全ての作品に内在していると思いました。それは、どの作品も根底に様々な不安が内在されていること、そして結局は、お互いが尊重しあってこそよりよい世界になることを描いています。
 
――グランプリはどのように決まったのでしょうか?
ベネックス:グランプリに値するかどうかは、作品の資質、編集、どの視点から描いているか、オリジナリティがあるか、演技はどうか、いわゆる映画のリズムがあるかなど。そういう要素をすべて検証したところ『ブルーム・オヴ・イエスタディ』に決まりました。もちろん、そういう要素を満たすには監督にどれくらいの力量があるかが問題ですが、このクリス・クラウス監督は十分に資質がありました。
 
――最終的に多数決で決めたということはありましたか?
ベネックス:賞を決めるにあたって満場一致だったのか、どんな議論をしたかについては秘密です。それを明かすのはアンフェアですからね(笑)。私も若い頃だったら、「俺はここにいたんだぞ」という証しを残そうという気持ちがあったかもしれませんが、年を取るとちょっと利口になったようで、今回は審査委員のコーチというような役目を果たした気がします。付け加えると、私はこれまで映画人として全ての役割をこなしてきました。監督はもちろん、自分の作品や他の人の作品をプロデュースし、カメラマンとしてカメラの後ろに立ったこともあります。そして配給も手掛けました。そういう経験を積んだからこそ、今私は素晴らしい才能の輝きを素早く見出す“勘”と“目”を持っていると信じています。
 
――そういうご自身の視点から見て、才能のきらめきを感じた作品、監督、俳優は?
ベネックス:まず、フランスの女優、アデル・エネル(『ブルーム・オヴ・イエスタディ』)は磨かなくてもピカピカ光っている宝石だと思います。最優秀女優賞を彼女にと思いましたが、彼女にはこの賞を渡さなくても、今後世界に羽ばたいていくと思い直しました。だからといって、『サーミ・ブラッド』のレーネ=セシリア・スパルロクに渡したことをアンフェアだとは思いません。彼女も本当に素晴らしかった。今、この時期に彼女に賞を渡してスポットを当てることが意味のあることなのです。
 
――クロアチア映画『私に構わないで』が最優秀監督賞を受賞したのも同じような意味があるからですか?
ベネックス:ある意味、そうかもしれません。作品としてはとても小さなストーリーですが、非常に一貫性がある。自分のルーツに戻って行く、そしてそこにとどまるということを描いています。そしてハナ・ユシッチ監督もこれから羽ばたく才能を持っていると思います。ただし、この作品はこの東京国際映画祭で、今、賞を渡さなければ埋もれてしまう映画だと思ったのです。最優秀芸術貢献賞の『ミスター・ノー・プロブレム』は伝統的なスタイルでありながら、非常にスマートに撮っている。監督は、小さな空間のなかで壮大な中国の政治を描いていると思いました。そして主演のファン・ウェイは、監督の思いを理解し、やはり伝統的な演じ方をしつつもスマートさを感じさせてくれました。
 
――賞を逃した他の作品については?
ベネックス:『パリ、ピガール広場』のレダ・カテブは素晴らしい俳優です。この映画は、エスニックな政治的問題が起こっている場所=パリ“ピガール広場”を描写した出来のいい作品です。『天才バレエダンサーの皮肉な運命』は、私好み。アーティストは自分が死んでまでも完璧主義を貫くという姿勢は、非常に日本的かもしれませんね。最後の最後まで、自分の死をもってショーを見せるという執念、思いの強さが私の好みなのです。俳優も素晴らしく、エレガントで気品のある場面がたくさんありました。日本の『雪女』はとても伝統的でありストーリーテリングが正確でスローペース。『アズミ・ハルコは行方不明』は、不安でありながら異常な速さで展開している現代社会を描写している。2作は対照的ですが、多分その伝統的な良さとモダンな現代性を合わせた時に、もっと違うものが生まれるような気がします。ただし、両監督とも自分のやりたいことを作品として創りあげたことはとても良いことだと思います。
 
――「東京国際映画祭は特徴がない」と言われることもありますが、ご自身が映画祭へ参加した感想は?
ベネックス:東京は世界のなかでもっとも素晴らしい都市のひとつです。そこで映画祭が開かれること自体が特徴ですから、東京は何もしなくていいのです。ただし、これは世界中の映画祭も同じ問題を抱えているのですが、とにかくもっと刺激のある作品をどんどん集めてくることです。映画祭は必ずプレッシャーがあります。他の映画祭と比べられるプレッシャー、配給会社からのプレッシャー。しかしただひとつ言えることは、素晴らしい作品がひとつでも多く世に出ること、そしてその映画の源であり、映画の真髄というものは映画祭のなかで必ず誕生しているということです。ですから、もっともっと刺激のある作品を東京国際映画祭に送り込もうじゃないか!と呼びかけたいですね。
 
(取材/構成 金子裕子 日本映画ペンクラブ)

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