売春をしていた少女がパリからルーマニアに強制送還された。事件を取材するTVクルーを手伝う記者は手柄を立てようと張り切るが、少女への面会は難航し、記者の前にヨーロッパの闇が立ちはだかる…。
ゼロ年代中頃からルーマニア映画は世界の映画祭を席巻し続けているが、本作が長編5作目となるA・シタル監督もその一角を狙う存在である。現代ヨーロッパが抱える問題の中で、ジャーナリストとしての職業倫理と葛藤する主人公の心理が、息子との関係にも影響を及ぼしていくなど、スリリングなストーリーテリングが堪能できる心理ドラマである。本作とほぼ同時期に製作され、ベルリン映画祭に出品された前作の『Illegitimate』(16)は、常識や倫理が持つ意味を、カオティックな家族の物語の中で相対化して見せる傑作であった。2作に共通するのは、現代社会における個人のモラルの危うさである。ルーマニアの注目作家による屈指の演出力に注目したい。
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