重慶のシューファー農場は、生産性は高いが利益につながらない。雇われ番頭のディンは、収入を増やすために自称芸術家のチンに空き部屋を貸すことにする。ディンと従業員たちの癒着に不満を抱いた農場所有者は、ディンをクビにしようとするが、便宜を受けているチンが反対する。それでも所有者一家は近代的発想を持つ新しい経営者を雇用することにし、騒ぎは大きくなっていく。
ロウ・イエ監督の脚本家として名高いメイ・フォンは、自らの初監督作として、中国近代文学において魯迅と並び称される作家である老舎が、1943年に発表した短編小説を選んだ。富裕家族と番頭さん、軽薄な若者に、近代的経営者など、個性的な面々が行き交い、軽やかな味わいの作品世界を彩っていく。戦火の気配は遠くに感じるのみであり、一種のパラダイスの中で進行する物語が、来るべき新時代の空気を予見する。作品のトーンとして「リアリズムと印象派の釣り合いを求めた」と監督は語り、様式美を備えた品格あるモノクロ映像として見事に結実している。監督としての確かな力量を証明する堂々たるデビュー作である。