アレクセイ・テムニコフは名の知れた天才バレエダンサーだが、90年代にその短いキャリアは突然終わっていた。20年後の現在はバレエ教室を営み、傲慢で冷淡な性格が周囲との軋轢を招いているが、全く気にする様子を見せない。達観したように生きるアレクセイだが、次第に体調が悪化するに従い、人生の選択を迫られる。
本作が3本目の長編劇映画となるアンナ・マチソン監督は、舞台との関わりも深く、本作でも威風漂う姿を見せるマリインスキー劇場の舞台監督や美術などを手掛けている。同劇場の芸術監督ワレリー・ゲルギエフが指揮するオペラの映像監督も務め、その縁でゲルギエフが本人役で登場するが、ここで虚構と現実の境が曖昧になり、実在のダンサーの生涯を追っているような効果を本作にもたらしている。マジカルなカメラワークも楽しく、スケール感のあるエンターテイメント作品として、従来のロシア(映画)のイメージを覆す作品である。主演のセルゲイ・ベズルコフは舞台と映画の双方で活躍するロシアの人気俳優である。