パリとファルハードは演劇と映画を仕事にする中流階級の夫婦。ふたりは愛し合い、ひとり息子とも幸せに暮らしているが、パリは再び妊娠。ふたりとも望んでいない妊娠だった。いったんは中絶で合意したふたりだったが、パリは疑問を抱き始める。
現在のイラン映画では、畳みかける会話の応酬が緊迫感を盛り上げ、そのまま物語をリードしていくスタイルが主流となっている。本作もその流れを象徴する1本である。2子目を産むかどうかで意見の食い違う夫婦の物語は、現代社会において普遍性を持ちつつ、その議論の進め方にはイラン社会特有の価値観も垣間見える。事態が次第に取り返しのつかない状態に転がってしまう展開も、昨今の優れたイラン映画に特有であり、80年代よりドキュメンタリー編集や短編製作を手掛けてきたキャリアの長いアブドルヴァハブ監督の確かな力量が伺える。夫を映画監督、妻を舞台女優と設定することによって、現代イランにおける表現活動の実態を伝えようとする監督の意図も見逃せない。