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2016.10.28 [イベントレポート]
「自分の考えをそのまま説明書のようにするよりも、余地というのを相手に対して渡したいんです。」 日本映画スプラッシュ部門 『太陽を掴め』 -10/26(水) Q&A

太陽を掴め

©2016 TIFF

10/26(水)、日本映画スプラッシュ部門『太陽を掴め』の上映後、中村祐太郎監督(中央)、松浦祐也さん(俳優・右)、木村 暉さん(脚本・左)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒作品詳細
 
Q:ワールドプレミアおめでとうございます。これまでの作品と比べて規模も大きいですが、意気込みは今までと違いましたか?
 
中村祐太郎監督(以下、中村監督):今までの規模は、自分の感情やバックボーンを利用して、それを材料にして作っていた面もあるのですが、今回はよりエンタメ性に寄せました。
その中に自分の欠片というものが入っていない訳ではないのですが、それを削いでお客様のことを考えるという風に転換しました。その面ではまだ自分の作品というか、チームの作品でありますし、お客さんに届けて目的が達成されたという感じ。そういうことも含め、自分もまだ映画に踊らされているというか。
 
Q:お客様に届けようという意識をより強く持った時に、ある種の三角関係といいますか、男性2人女性1人の3人の物語にしていこうという発想は、自然に出てきたものでしょうか?それとも試行錯誤の末ですか?
 
中村監督:主演が吉村界人君で、その時にもう一人想定していたキャストがいて、男性2人メインで、間に女性を入れると、話として面白いと思いますし、よくある女性を取り合うという。今回吉村君と浅香君がメインの男性キャストですけれども、二人ともすごく好青年で、キャッチーな男性ですが、その二人が女性を奪い合うという展開が見ていて心躍るというか。且つ、吉村君は甘いマスクですけれど、等身大で飾らず、人間としてぶつかり合う性格をそのまま投影できました。好きな人がいたりとか、好きな女性を取られたりとか、お客さんに共感を持ってもらえたらという思いで作品を作っていきました。
 
Q:タクマ役の浅香航大さんとユミカ役の岸井ゆきのさんの、参加の経緯を教えてください。
 
中村監督:浅香君も岸井さんも、それぞれ共通の知り合いを介してのオーディションで揃いました。
 
Q:吉村さんの役作りについて、どのようなディスカッションや準備を監督と進められたのでしょうか?

 
中村監督:彼と関係を作っていく中で、彼が出演していた作品を観る機会があったのですが、その作品自体がすごく彼のまんまだったんです。最近はCMやドラマでも活躍していて、もしかしてそこで出会ったらまた違ったかもしれない。僕も彼は彼のままで活かしたかった。岸井さんと浅香君が、均等な演技というか、完成された演技をするので、そこでブレイクして彼がいると活きるんじゃないかと。
あのギラギラした感じって、プライベートでもあんな感じですね。すごい怖いですよ。怖いです、怖いです。
 
Q:撮影中に監督と衝突とかありましたか?
 
中村監督:特になかったですね。すごくちゃんとしていると言うと失礼なのですけれど、真面目です。だから逆にすごく助かりましたね。ライブシーンはすごく大変で、そこでは一回くらい軽い衝突みたいのがあったのですが、すぐ仲直りしました。
 
Q:ライブシーンは撮影のどの段階で撮られたんですか?
 
中村監督:結構後の方です。後半で残すところドラマが3シーンくらいかな、みたいなところで2日かけて撮りました。ナイトで朝まで、ナイトで朝まで、で朝寝る、みたいな。最初のオープニングのライブと、最後のライブは別日でした。
 
Q:彼は歌とかバンドの経験はあるのですか?
 
中村監督:ないですね。最初に彼が歌うってなった時に、一緒にカラオケに行こうと。それで、カラオケに行って、ビートルズとか歌ったんですよ。ちょっと味があるんだけれど、発音が上手いんです。彼の歌う姿というか、彼の発する歌声というのはすごく自信に満ちていました。なので、何度か練習をすれば多分大丈夫だろうなと思いました。
 
Q:ユミカに、ある種の狡さみたいなのを感じたんですが、なんでそんな風にしたのですか?
 
中村監督:僕は女性に対しての拒絶反応はないんですけれども。すばらしいというか、対等で、壁とかなにもないんです。ただ、天使のようには描きたくない。すごく人間味というか、狡さというか、回避というか、それも含めての可愛げである、みたいな。タクマだって、男は男なりの狡さもあるし、逃げもあるし、弱さもあると思う。清潔すぎるのも僕は苦手なんです。僕の以前の作品では、濡れ場とか露わにしているんです。でもそれって結局プラスになるんですよね。ちゃんと包み隠さず、そういう所を見せると。ああいったところで可愛げが出るなって思っています。
 
Q:マリファナを吸ってしまうというのはかなり極端に触れているような気もしますが、岸井さんはどんな気持ちで演じてらっしゃったのですか?
 
中村監督:岸井さんは、終始アタマに「?」があって。最後の方で押し入れの中に宇宙があるじゃないですか。そこが理解できないって、ずっと言っていました。色々ディスカッションして、最終的に撮影できたのですが。マリファナ吸ったりとか、ある種の狡さとかは、岸井さんは「だよね」と、腑に落ちたみたいでした。
 
Q:押し入れのシーンはどのような説明を岸井さんにされましたか?
 
中村監督:僕は自分の考えをそのまま説明書のように全部公開するのは相手に対して失礼に当たるというか、余地というのを相手に対して渡したいんです。岸井さんの場合は、監督のこれを納得せざるを得ないから(説明を)お願いします、と言われたんですけど、そうじゃないんだよな、みたいな。岸井さんの思うこのシーンを形成してほしいなと思ったんです。最終的に撮影日になって、僕が隣ですごく言いながら撮影していたんですが、岸井さんも演技の上手な方なので、巧くなっちゃうという。マジックですよね。
 
Q:太陽はユミカなのですか?
 
中村監督:太陽はユミカでもいいんです。ユミカなんだろうな、と思っていても、それも正解、みたいな。「あ、オレだ!」みたいに思ってもいいんです。
 
司会:せっかくですので、松浦さんをお迎えしたいと思います。
 (松浦祐也さん登場。以降、松浦さん
 
Q:若いスタッフとキャストが多い現場でどのような心持ちで演じられたのでしょうか?
 
松浦さん:下北沢の東京学生映画祭で、中村監督の『雲の屑』を何の予備知識もなく、たまたま見ていて、すごく面白い映画だなと思ったんです。出演者の和田さんとの共演が何本もあったので、監督と脚本の木村君を紹介してもらって、それが今回の縁かな。
 
中村監督:そうですね。それが縁で交流が生まれたという感じです。
 
松浦さん:中村組は初めてだったので、どんな感じなのかなと思ってたんですけど。シナリオを読んだときに、落としたトーンでいやらしく攻めていくような人物なのかな、と思って現場に入ったら、監督が「上げろ、上げろ」と、煽れ、と。そうした演出をしてくれて、新鮮に、吉村君と2人でやり取り出来てすごく面白かったですね。
 
Q:監督としては、松浦さんに吉村さんのギラギラを引き出して欲しいという意図があったのでしょうか?
 
中村監督:そう、パワーバランスが対等であってほしい。ヤットの兄貴ですから、同じ血が流れている。ヤットの吉村君が等身大であるように、松浦さんには演技力でポテンシャルの高さ、タフな感じを出してほしいと思ってました。あれは松浦さんの等身大ではないですけどね(笑)。ヤットと嚙みつきあうようなキャラクターですから。ユミカにいたずらしちゃうシーンは、アッという間に6時間が経っていたんです。あれは現場がすごく小さくて、撮影、照明、録音で、松浦さんと吉村君と僕くらい。外にいた助監督から電話がかかってきて、「6時間経ってますよ」と。
 
松浦さん:テストを重ねた、というのもありました。言い方が悪いのですが、システム化された現場だと、段取りはざっくりやって、テストでだんだん力をあげていく作り方をよくするんです。中村組の場合は、最初から俳優部が全力でいかないと監督が納得しないので、岸井さんとも吉村君とも、全力でバンバンやっていたので疲れましたね、おじさんは(笑)。
 
Q:映画を作っている方たちは、マリファナとか覚せい剤が「これが現代のひとつだ」と思っていらっしゃるのでしょうか?映画は道徳的であるから良いというものでもないし、非道徳でなければいけないものでもないですが、映画のウソは映画のウソでいいんだと言い切るのもなのかどうか、これからの映画の作り方について伺いたいです。
 
中村監督:マリファナというか合法ハーブというか、脚本家とディスカッションして入れた理由としては、今の好青年たちが、虚無と戦っているというか、すごく満たされているけど満たされていないよねと。例えば昔の、アスピリンをいっぱい吸う映画とかも僕は大好きなんですけれども、僕はそこまでリアルでもなく、ディープにも描いていなくて、すごく軽い感じで描いているんです。今見ている日常の中での薬物を、目の当たりにしているレベルで僕は描きたかったんですよね。あとよく言われるのは、音楽の映画なのに音楽の苦悩も描いていないと。僕はそういうことよりも、彼らが生きている町、生きている心情を描きたかった。重要なのは、要するにユミカがどっちにいくのか。告白があって物語を完結させたかったんですよね。
 
松浦さん:自分の両親からの話しをきいても、普遍的にあるものなのかなと思いますね。現代だからということではなく、60年代、70年代でもやっている人はやっていて、それは邦画の中でも描かれていて。それを現代性と結び付けてという考えよりも、普遍的にあるものなので、それを特化して考えているようには思わなかったですね。
 
Q:監督はこの作品を経て、今後どのような形で行こうと思っていますか?
 
中村監督:『太陽を掴め』で僕自身の熱かった青春が終わったという気持ち。動こう、やろう、という情熱が、いい意味で落ち着いたんです。最近それですごく悩んでいて考えたのですが、自分が楽しめることをもっとやってみようかなと。『太陽を掴め』もすごく楽しかったですけれども、ちょっとジョギングするぐらいに落ち着いて、いろいろ考えてみたいなと。今いろいろ考えているんですが、学校ものをやりたいです。学校をモチーフにした映画やドラマが大好きで、中学校から帰って、家で「金八先生」の再放送を見て泣いて、明日も頑張ろうと。先生も大変だけど、生徒も大変であって。そういうのが大好きなんですよね。でも、人を教える立場の人間の話を作って映画化するなんて、もうすごい領域で、僕はまだそこには至っていないと思うんです。
 
Q:学校って、生徒目線でなく先生側ですか?
 
中村監督:生徒も描くかもしれないですけど、僕はそこで救われたんです。いろんな言葉をもって僕は救われた分、まだ人生の取材が足りないですけど、もうちょっと勉強して、いずれ学校ものを作ってみたいなと。逆に、まったく違う映画を作ってしまうかもしれないですけど。
 
松浦さん:こういう演出なんですよ(笑)。
 

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