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2016.10.28 [イベントレポート]
「私たちは自分たちの過去や運命に向き合わなければならないと思います。」コンペティション『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』-10/27(木):Q&A

ブルーム・オヴ・イエスタディ

©2016 TIFF

10/27(木)、コンペティション『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』の上映後、クリス・クラウス監督、カトリン・レンメ(プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
司会:クリスさん、お迎えできてとても光栄です。ディープでかつ笑えてロマンティックで、でも深刻で、本当に様々な楽しみ方ができる素晴らしい作品だと思います。
 
クリス・クラウス監督(以下、監督):ありがとうございます。ドイツ語で”お花をありがとう”と申し上げるのですが、褒めていただいてありがとうございますという意味です。2回目の来日になるのですが、1回目では何年か前に、私の2番目の作品である『4分間のピアニスト』で女優のハンナと一緒に来まして、彼女も日本は本当に素晴らしいと言っていましたので、今回2度目の来日ができて、本当に光栄に思っています。
ブルーム・オヴ・イエスタディ

©2016 TIFF

 
司会:女優のハンナさんは、奥さん役の女性ですね。
 
監督:ちょっと小さめの役なのですが、素晴らしい演技をしてもらったと思います。実は彼女は30歳で、この役柄は40歳とか42歳くらいなので、お腹まわりの肉とか足りないのですが、素晴らしく42歳の役を演じきってくれたと思います。
 
カトリン・レンメさん(以下、レンメさん):ありがとうございます。映画を出品させていただいて、非常に嬉しく思っています。そして、皆さんがどんな風にこの映画を受け止めていただいたのか、とても好奇心があるというか興味があるのですが、ぜひ質問していただいて答えたいと思っています。
ブルーム・オヴ・イエスタディ

©2016 TIFF

 
監督:この映画はとてもヨーロッパ的な引用と言いますか、ドイツ、ユダヤ、リトアニアなど色々な引用というか、バックグラウンドが必要なので、日本の方にどのくらい通じているのか非常に興味があるので、ぜひこれは訊いてください。
 
司会:色々なレベルで楽しめる、良い意味で複雑な作品なんですけれども、監督はどこからスタートしたのか、例えば男女2人の変わった形のロマンティックコメディというところから入っていったのか、ホロコーストの問題を現代風に語ってみようと思われたのか、どういったアプローチでこの複雑な脚本を作られたのかをお伺いしたいです。
 
監督:実は、2つのスタートポイントがありまして、1つは私自身の家族の歴史なんですね。10年程前に、私の祖父とその兄があまり良くない過去があったということで、それを知りとてもショックを受けました。そして、それについてのドキュメンタリーというか記録的な本を作ったのですが、凄く悲しくなったのです。私のある種グロテスクなバックグラウンドについてもっと語りたいと思いました。そして、ラトビアとかポーランドとかには色んなアーカイブ、記録文があるんですけれども、そこで奇妙なことに、犠牲者のお孫さんたち、あるいは加害者のお孫さんたちが思ったよりリラックスしていて、ユダヤ人の方たちが割と普通に受け止めているところがありまして、その両者の間でラブストーリーが展開されているという話を聞いたので、そこが2つめのスタートポイントで、この物語を書きました。
 
司会:ではある程度Based on true storyと言っても間違いないわけですね?
 
監督:いや、そうではありません。全くのフィクションなんですけれども、その背景としていくつかのシーンでドキュメンタリー的なところがあるのですが、例えば研究所の会議室とか、ストーリーとしては色んなジャンルをミックスして、色んなスタイルをミックスしています。ただミックスしていないというか、私たちがキープしたかったのは、その全ての向こう側にある痛みといったものはキープしたいという風に思いました。そして、これはドラマなのですが、ちょっとコミカルな部分もあるドラマに仕上げました。
 
Q:とてもユニークな作品で素晴らしかったです。日本でもやはり歴史問題、例えば日本が加害国でアジアの他の国が被害国という構図があるんですが、そのことに触れること自体が凄く忌み嫌われるというか、政治的発言を公の場ですることが凄くセンシティブで難しいんですけれども、この企画が立ち上がった段階で、こういう難しい問題を同時に扱った脚本が、どのように周りに受け止められたのかをお伺いしたいです。
 
監督:良い質問をしていただき、ありがとうございます。ドイツは日本とは違って、ナチスなどの過去について話すことは割とよくあるというか、普通のことです。ただ私がここ10年、自分の家族を含め、様々な研究をする中で、なんとなくフィットしないなと思うことがありました。ホロコーストの記念研究所のような場所があるのですが、その一方で、加害者の立場にあるナチスについて、私たちの世代はもう個人的な痛みとしては感じていないのです。まるでナチスが宇宙から来たかのような感じで、もちろん宇宙から生まれたわけではないのですが、個人的には受けとめていません。私は研究所のように外から見るのではなくて、個人の痛みを伝えたいと考えました。私の息子の世代は全然興味を持っていないのですが、私たちは自分たちの過去や運命に向き合わなければならないと思います。一方で日本と似ているのは、個人的な痛みを感じていないという点かもしれません。
 
Q:私の勉強不足だと思いますが、結構難しい映画だと思いました。先ほどの質問に関連するのですが、私の印象ではドイツにはエンターテイメントの映画も多くありますが、ナチスやヒトラーを題材にした映画が多いと思います。ドイツの方々にとって、これは過去の反省なのか、それともテーマとして扱っているだけなのか?ドイツの負の部分をえぐるような作品を作ることは、ドイツの方々にとってどういう感覚なのでしょうか?
 
監督:良い質問をありがとうございます。おっしゃるとおり、ドイツではこれは巨大なテーマです。ドイツでは、映画の中だけではなく、学校でも8歳からホロコーストについて継続的に学びます。ただ私は、新しい視点からこの問題に取り組みたいと思いました。この映画にルビンシュタインというユダヤ人女性が出てきますが、非常に物議をかもす存在だと思います。彼女のような嫌な人というのは、今まではタブー視されていたので、出てくることはなかったのです。
この映画のテーマは大きく多面的ですので、場所もドイツから始まり、ウィーン、オーストリア、ラトビアに行って、またドイツに戻ってきます。混乱させてしまい、すみません。テーマに様々な面があり、それをすべて映画に取り入れたいと思ったので、こうなったわけですが、ヨーロッパ以外の観客には、少しわかりにくかったかもしれません。
 
司会:『4分間のピアニスト』では、ナチスの病院に勤めていた老女とのナチスの話を織り込みながら、やはり天才少女の話としてお伝えになっています。今回もホロコーストの問題を扱いながらも、ラブストーリーとして作られていますね。過去の辛い歴史に少しエンターテイメントの要素を加えて、新たな形で伝えていくことが、監督のライフワークとお考えですか?
 
監督:正直に言うと、次の映画もその2つの点に関わっています。これは私にとって非常に個人的なものです。私の家族の歴史は、この映画のトトに似たところがあります。『4分間のピアニスト』を制作した後、それまで知らなかった様々なことがわかってきました。私は今52歳ですが、4年ごとに映画を制作していますので、こういうものを作っていくということなのかもしれません。
 

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