10/28(金)、コンペティション部門『シェッド・スキン・パパ』の上映後、ロイ・シートウ監督、アルバート・マックさん(アソシエイトディレクター)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒作品詳細
ロイ・シートウ監督(以下、監督):皆さんこんばんは。なんだか不思議な感じがします。実は、編集が終わり、自分自身でラフカットを200~300回ほど見ました。以前は、CGや音楽や作品全体の良し悪しを吟味しながら映画を見ていため、頭の中で様々なことを考えながら映画を見ていました。しかし、今日は何も考えずにこの映画を見ることができましたし、この会場で素晴らしい観客の皆さんと一緒に映画を見ることができました。日本の皆さんのことが本当に大好きです。雨にもかかわらず見に来てくださり本当にありがとうございました。
アルバート・マックさん(以下、アルバートさん):皆さんこんばんは。実は、僕は東京国際映画祭のような催しに参加するのは初めてです。ここで、あいさつの代わりに劇中のルイス・クーの台詞を引用したいと思います。ここ最近はずっと寝てしまいまして、この一週間はまさに私の撮った映画のように、リアルでありながらファンタスティックな部分があります。映画を見に来てくださり本当にありがとうございました。
司会:原作は佃典彦さんの戯曲「ぬけがら」ですが、香港で演劇としても上演しておられますが、この原作との出会いを教えてください。
監督:ある友人が東京大学で戯曲の勉強をしていて、香港に帰ってきた時に私にとても合う芝居があると紹介してくれました。ちょうど父親が亡くなったばかりの時で、友人のその言葉は冗談か何かだろうと思っていました。しかし、脚本を読んだときに、この芝居は私の人生を理解し直し、そして私自身の人生を助けてくれる作品だと感じ、この作品との出会いで私の重要な部分を直す機会となりました。というのも、実は私自身も父親を長い間恨んでいたのです。
司会:この作品を映画化しようと考えたのはいつ頃ですか。
監督:お話をいただいてから2、3年ほどです。
司会:フランシス・ンさんとルイス・クーさんとがこのプロジェクトに共同することになった経緯を教えてください。
監督:私にとってはまるで夢のようでした。フランシス・ンさんとは以前、舞台劇でご一緒したことがありよく知っていたので、この役は彼にしかできないと考えていました。しかし、彼に脚本を渡したとき、彼はある一つの年代の人物を演じると思ったようです。私は、「6役すべてをお願いしたい」と伝えると、「そんなに大変なの?!」と驚く彼に、「かっこいいよ!」と口説きました。その後、ドリームキャストをもって作品を作り上げることができましたが、中でも他の脚本などとの兼ね合いもあり、ルイス・クーさんにお願いすることがとでも大変でした。
司会:(監督に)フランシス・ンさんの役作りについてできる限り教えてください。
監督:年老いた役に関しては、特に所作や声づくりについて彼からの提案が多かったです。彼がメイクをして現場に入ると、老人そのものの姿でした。撮影では、老いた年代から若い年代へ遡って撮影をしたため、彼は若い年代の役を演じるために2週間かけてボディトレーニングをして、自分の体を老人から若い男の体に戻していきました。
Q:監督は、佃典彦さんのほかに、好きな日本の演出家や作家はいますか。
監督:黒澤明監督です。演劇については、好きな演劇などはあるのですが名前がわかりません。
司会:劇中のドアに貼られた『野良犬』や『自転車泥棒』のポスターは監督の趣味ですか。
監督:もちろんです。黒澤明監督の作品や『ゴッドファーザー』、『自転車泥棒』のポスターを貼っていますが、こうした作品を知っている人はいるわけで、ポスターを貼ることには意味があります。
Q:お母さんが冷蔵庫から出てくるシーンの意味合いを教えてください。また、劇中の最後にニコラス・ツェーさんの名前がたくさん出てくるのですが、それはなぜですか。
監督:お母さんが冷蔵庫から出てくるシーンについては、日本の原作の芝居と大きく関わっています。ご存知の通り、日本の原作名は「ぬけがら」ですが、この抜け殻を表現するときに想像するものといえばセミ、バナナ、そして冷蔵庫。その中で、映画の初めのシーンにお母さんが冷蔵庫から出てくることが、この映画の最初のミラクルになるのではないかと、私なりの解釈をしました。それにお母さんはいつも台所にいますよね。ニコラス・ツェーさんに関する答えはマックさんに答えてもらいましょう。
アルバートさん:実は当初この映画には、本物の監督に友情出演していただこうと考えていました。そこで初めはジョニー・トー監督に出演をしていただこうと思い、ルイス・クーに話をしてもらって頼みました。しかし、トー監督からは、主役なら出演するけれど友情出演はしないと断られてしまいました。(笑)
司会:そこから始まって、ニコラス・ツェーさんになったわけですね。
Q:劇中、『オズの魔法使』のテーマソング「オーバー・ザ・レインボー」が流れていましたが、その曲を選んだ理由と、そこに込められた思いを教えてください。
監督:日本版の演劇では、「上を向いて歩こう」という素晴らしい曲が使用されていましたが、よく考えると、この「上を向いて歩こう」に勝る歌はないと思いました。なぜなら、悲しみと幸せの両方が伝わってくる曲だったからです。しかし、ある日、ネットでふくよかな黒人歌手が『オズの魔法使』の「オーバー・ザ・レインボー」を歌っているのを見つけました。この曲は、私たちが小さい頃によく耳にし、そしてよく口ずさんでいた曲でした。私にとって、この歌はファンタジーな部分と幸せだけではない何かを伝える部分を歌っているような印象がありました。また、この曲のタイトルは「オーバー・ザ・レインボー」ですが、劇中で何度も「離陸しよう」と語る場面があり、空を飛ぶ時には何度か虹を目にするでしょう。映画の中では、この曲で何か意味を込めたいと考えていました。