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2016.11.07 [イベントレポート]
「暗い歴史を持つカンボジアですが、若者たちは未来へ希望を持って生きています」ワールド・フォーカス『ダイアモンド・アイランド』-11/2(水) :Q&A

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©2016 TIFF

11/2(水)、ワールド・フォーカス部門『ダイアモンド・アイランド』の上映後、デイヴィ・シュー監督、ヌオン・ソボンさん(俳優)をお迎えしてQ&Aが行われました。⇒作品詳細
 
デイヴィ・シュー監督(以下、監督):皆さん、おはようございます。今回、東京国際映画祭の参加は2回目になります。前回は、2012年に『ゴールデン・スランバーズ』で来日させていただきました。そのとき、私たちの国のクラシック作品の上映を組んでいただき、私たちと共に非常に有名な方も一緒に招待してくださいました。この度、再び私の映画を選んでいただきありがとうございます。今日は出演している俳優のヌオン・ソボンもおりますので、皆さんと楽しいひとときを過ごせれば幸いでございます。
 
ヌオン・ソボンさん(以下、ソボンさん):皆さん、こんにちは。今日はたくさんの方々にお越しいただきとても嬉しいです。
 
司会:最初に監督にお伺いします。カンボジア映画というと少し前のポル・ポト時代を振り返る、あるいはその傷跡を検証するような作品を私たちもよく観ているのですが、この作品は今のプノンペンの若い世代の話ですよね。どのような経緯でこの企画にしようとされたのかをまず教えてください。
 
監督:確かにポル・ポト政権を題材にした映画、20年~15年前や60年代を題材にした映画が海外で出品され、私たちの悲劇の歴史が題材になっています。私自身はフランス生まれ、フランス育ちで、カンボジアに住み始めたのが2008年です。非常に早いペースで街並みが変貌し、様々な変化を遂げているということを肌で感じており、その中で生きていく若者たちの変化というものも感じています。確かに、非常に暗い部分の歴史はあるのですが、同時に若者たちは現在のカンボジアで希望を持って生きていて、彼らの将来に対する希望というものもこの映画を通して見せられるといいなと思っておりました。そのような変化を今回お見せしたかったのです。やはり、どうしても皆さんがお持ちの(カンボジアの)イメージは、非常に暗い歴史の部分ですが、今はこんなにも変わっているということをお伝えしたいと思いました。
 
Q:監督としては、物語を通じてどのようなことを描きたかったのでしょうか。また、ヌオン・ソボンさんにはどのような指示をされ、演じてもらったのでしょうか。
 
監督:この物語は、古くから使われている題材です。田舎から若者が出てきて都会で生活をするうちに、さまざまな経験を通して成長して大人になっていくという、クラシックな映画のアプローチでもあり、おそらくアジアの映画では同様の題材を扱った作品が多いと思います。ただ、私はそれだけではなく、やはり若者が持っている夢にこだわりました。また、この(商業施設である)「ダイアモンド・アイランド」自体は政府や社会の意図によって人工的に建設されたものですが、夢の象徴でもあります。確かに大きなエピソードはありませんが、小さな変化の中で繰り広げられる気持ちの葛藤や、微妙な感情の変化をキャラクターを通して皆様に感じていただきたかったというところはあります。ただ、そういう部分に集中しすぎて、ストーリー自体に物足りなさを感じられたところはあるかもしれません。また、人工的なもの、嘘っぽいものを、美術的な演出で見せており、それを感じていただければと思います。やはり、若者というのは、新しいものや夢、周りの変化に吞み込まれてしまうのだ…という姿も同時に見せたいと思いました。
 
司会:ソボンさん、役作りの工夫などはありましたか?
 
ソボンさん:カメラの前で何かをするという経験がなかったので、最初はとても緊張してどのようにしたらいいかわかりませんでした。最初の2、3日はとても苦労しましたが、4、5日経つと緊張がなくなり演技ができるようになりました。最初は練習も大変で、人の目を見るとか、泣くとか、楽しい気持ちを表すということを、どのようにしたらいいのかわかりませんでした。練習を重ねるうちに、自分の気持ちを自由に出せるようになりました。
 
司会:お二人はどのように知り合われたのですか?
 
ソボンさん:私はプノンペンの市場でタクシーの運転手をしていました。お客さんを待っているときに監督が通りかかり、一度通り過ぎたのですが、戻ってこられて「君、演技しないか」とおっしゃいました。「これは信用できないぞ」と思ったのですが、そのあと連絡をいただき、テストに行きました。それが始まりです。
 
監督:私の映画ではアマチュアを使いたいと思っていました。いわゆる地元の人間ですね。もちろん現実の話ではないのですが、できるだけ自分たちの社会的背景がきちんと描けるようにと思いました。道を歩きながら、だれかと目が合うと、その目に輝きがあって将来に希望をもっているなという、それは勘なのですが、そういうものを持っている人たちと今回お仕事をさせていただきました。彼(ソボンさん)はもちろんタクシーの運転手に戻りますし、多くの人たちが素人ですから自分の仕事に戻ります。カンボジアでもこの映画が公開されていて、非常にポジティブな反応もいただいています。もしかしたら、将来彼がまた映画に出演する日が来るかもしれません。
 
Q:カンボジアの今後の発展を象徴しているのが、「ダイアモンド・アイランド」の建設だったと思います。急激な変動の中で働いているソボンさんが、スクリーンを通して我々に何かを訴えかけるようなクロースアップがすごく印象的でした。それは、今後自分がどのようにして生きていくのかという未来の姿を問いかけるクロースアップで、とても良かったです。このクローズアップについて、監督のご意見をお聞かせください。
 
監督:そのようにおっしゃっていただいて、本当に嬉しいです。「伝わったんだな」と手応えを感じております。私もはじめ「ダイアモンド・アイランド」を見た時、シュールというか、イミテーションというか、グレコ・ローマンの建物のようでもあり、ハリウッドのスタジオのセットのような印象を持ちました。しかし、その場にいると、そこで働いている若者たちがいて、夜になると都会の若者たちが女の子たちと連れだって来たりして、目を見ると、将来や未来への希望を感じているなと、分かるようになりました。もちろん最初からすぐに撮りたい画を撮れるわけではなくて、思考錯誤を重ねて、徐々にこのようなかたちになりました。若者と若者をとりまく環境を見ていただきたくて、そうした環境の中で、若者が希望を持ったり、絶望したりと、彼らの微妙な感情の揺れ、動きをようやくカメラで撮れるようになりました。そういうところを感じ取っていただけたのではないでしょうか。
また、映画の力というのは、見えないものを見せる、感じとっていただくということだと思います。『ゴールデン・スランバーズ』の場合、過去を題材としているので、いろいろな資料や過去の映像を使っているのですが、今生きている人間が過去のことをどう思っているのかというのを映し出したかった作品です。今回の『ダイアモンド・アイランド』は、これから将来にむけての希望を皆さんにお伝えしたいと思っていて、そういうところを感じ取っていただければと思います。

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