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2016.11.08 [イベントレポート]
「過酷な状況にあるインド人女性が成し遂げた偉業を、女性監督が映画化したこともまた偉業と言えると思います。」ワールド・フォーカス『ファイナル・ラウンド』‐10/31:Q&A

ファイナル・ラウンド

©2016 TIFF

 
10/31(月)、ワールド・フォーカス部門『ファイナル・ラウンド』の上映後、R・マーダヴァンさん(俳優、本作にはプロデューサーとしても参加)、シャシカーント・シヴァージーさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。⇒⇒作品紹介
 
R・マーダヴァンさん(以下マーダヴァンさん):皆さんこんばんは。飛行機で荷物がなくなってしまい、今日はこんな格好で皆さんの前に出ることになり失礼いたします。日本のことは以前から大変尊敬しております。日本の国民は様々な苦難を忍耐力と威厳を持って乗り越えられてきたと思います。じつは20年前に交換留学生で日本に来ていたことがあり、その頃から私は日本を敬愛しています。皆さんこの映画を楽しんでいただけたでしょうか。これは僕たちが情熱と愛を込めて4年もかけて作った作品なのです。ですからやっとこういう形で公開できたことをとても嬉しく感じていますし、今日この場にいられることも大変光栄に思っております。どうもありがとうございます。どんな質問でも答えますのでどんどん聞いてください。
 
シャシカーント・シヴァージーさん(以下シヴァージーさん):私も今日ここに来られて大変嬉しく思っております。日本は初めてですが、とても楽しみにして来ました。
 
Q:なぜ映画を作るのに4年もの時間がかかったのでしょうか。また、4年もかかると、俳優さんとしても緊張感を保つのがすごく難しいのではないでしょうか。
 
マーダヴァンさん:私が映画を作りたいと思うと、コンセプトに共感して資金を出してくれるプロデューサーを探すのに、とても時間がかかってしまいます。今回、幸いなことに彼(シヴァージーさん)が手を挙げてくださったのですが、彼を探すのに3年かかりました。ほかにも、4年かかった理由が2つあります。まずこの作品に出る前に、私はもうひとつの作品に出ていたのですが、恰幅のよい役で太っていたんです。今回、自分が劇中でボクシングをするわけではないのですが、元ボクサーという設定なので、それなりの身体を作るために1年半トレーニングを積みました。2つめの理由ですが、この映画は2つの言語で撮影したんです。ヒンディー語とタミル語ですね。インドではタミル語が主要なマーケットなので、どうしてもこの言葉で映画を作らなければならないということで、ポストプロダクションに1年以上かかりました。
 
Q:2つの言語で作ったのは、1つの言語で撮ったものに吹き替えをしたのか、それとも1回1回撮ったのか、どちらでしょうか。
 
マーダヴァンさん:タミル語のキャストとヒンディー語のキャストとのダブルキャストで撮りました。メインのキャストは同じだったのですが、他の脇役のキャストは皆2組いまして、それでシーンごとに2回撮影していったということです。
 
Q:インド映画ではそういうことを常にやっているのですか?
 
マーダヴァンさん:そうではなくて、2つの言語のマーケットで人気のある俳優さんが出ているということ、それと物語が2つのマーケットで受けるだろうと思われた作品のみ、そういうことをしています。
 
Q:マーダヴァンさんはヒンディー語の映画でもタミル語の映画でも活躍されていますが、映画の作り方や、演技やアプローチなどの違いは何かありますか。また、どちらが好きであるとかリラックスできるかということはありますか。
 
マーダヴァンさん:映画作りに関しては、大差ないです。まったく同じといっても過言ではありません。ただ、やはりヒンディー語の映画のほうが予算は多いですね。マーケットも大きいですから。どちらが自分にとって楽かというと、ヒンディー語です。その言葉で育ちましたからね。とはいえ僕自身が南のほうの出身なのでタミリアンであるとも言えると思います。なので、そちらの言葉も慣れ親しんでいますが、脚本を書くということになると、ヒンディー語では台詞をつけられるのですが、タミル語ではなかなか書くことができません。しかし映画というのは、どの言葉で作っても自分自身、または実際の人々の人生をリアルに物語にして描いていくわけですから、そういった意味では違いはないと僕は思っております。それと同時に、今日、皆様方と映画を観て、皆さんが笑ってくださるシーンというのが、例えば南インドの本当に小さな村で上映しても同じだったのです。そういった意味で、今日はとても勉強になりました。「みんな同じところで感動してくれるんだな、ウケてくれるんだな。」と実感しました。
 
Q:初歩的な質問ですが、今日上映したのはヒンディー語ですか、タミル語ですか。
 
マーダヴァンさん:今日のはタミル語です。
 
Q: 1つ疑問に思ったシーンがあります。マディがコーチに恋をするシーンがありますが、私は個人的に師弟愛に目覚めるべきだと思いました。なぜマディは師弟愛としてではなく、コーチを恋愛対象にしたのでしょうか。
 
マーダヴァンさん:まず明白なのが、コーチは彼女に恋愛感情を抱いていません。そしてはっきり「自分はあなたのお父さんの年代だよ」と彼女を諭すわけです。ただ、僕自身はロマンチックな男なので、できたら相手の女優さんの役どころを愛したいです。もう一つ皆さんに説明したいのは、マディが生まれ育ったインドの地区というのはいわゆるゲットーで、本当に貧しい人たちが多いわけです。ですから彼女は物心ついた頃から男の人たちには殴られたり、すごく差別されたりして育ったんですね。父親はご覧いただいたように全然彼女の面倒を見ないし、どちらかというと暴力的ですらある。ですから彼女の周りの男たちというのは、女性と見れば目的は1つしかないわけです。そんななかで、彼女を女性として追いかけるのではなくて、本当に彼女の幸せを考えてくれる男性に初めて出会ったわけです。そういう状況の女性というのは「この人が私の運命の人かしら」と恋心を抱いてしまうのが自然だと思います。ただコーチも同じ感情を抱いてしまうといけないと思いまして、そこは切りました。この映画は実話に基づいているのですが、実際、女性のボクサーはそういった感情をコーチに抱いてしまいました。私自身、大学で教えているのですが、やはり学生たちは自分のことを恋愛対象に見てしまうので、「僕は妻帯者だし、君たちとは師弟関係だよ」ということをいつもはっきり生徒たちに言っています。
 
Q:この企画をマーダヴァンさんから受け取ったとき、シヴァージーさんはどう思いましたか?
 
シヴァージーさん:マーダヴァンさんは、皆さんご存知の通り素晴らしい俳優 です。インドでは物語全体をナレーターが語ることがよくありますが、彼はこの映画のナレーションをしてくださっていて、それがすごく上手くて、素晴らしい物語だなと思わせてくれる語りです。
僕が思ったのは、この物語はいろいろな魅力がある。まず負け犬が一生懸命頑張る、そして体制に反逆して、一所懸命、自分の信念を貫く。そしてもちろんスポ-ツ映画でもある。観客に受ける要素がいろいろあると思い、製作をしたいと考えました。
 
Q:この映画は事実をもとにしているということなのですが、映画の中で理事長が選手に性的な関係を迫るという恥ずべきシーンがあります。何かそういう事実があったのでしょうか、それとも映画のための創作なのでしょうか。
 
マーダヴァンさん:残念なことにあれは事実です。この映画を作るにあたり、入念なリサーチをしました。ですからここに描かれていることはすべて実際に起きたことです。インドは、国として女性の地位向上の努力をしている最中で、今年は「イヤー・オブ・ザ・ウーマン」という女性を支持する年とされていますが、やはりこの作品の設定の時代というのは、そういったことが横行していました。
 
Q:インド映画では女性とスポーツを扱ったものがたまにありますが、そういった映画ではインドにおける女性の地位も絡めた映画が多くて、「なぜ女にスポーツが必要なのか」とか、「どうせ結婚したら家に入るのになぜスポーツしないといけないのか」と考える男たちに対して、それを覆すような話が多かったように思います。この作品で女子ボクシングという「女性とスポーツ」というテーマを扱ったのにはどういった意図があるのでしょうか。
 
マーダヴァンさん:インド人女性が、これほど過酷な状況で、スポーツの世界で成功するというのは、本当に偉業だと思うんです。東南アジアは全般的にそういうことが言えると思います。例えば施設の面でも難しいし、トレーニングするのが大変ですから。ですが、実際にインドの女性のボクサーが2006年のワールドチャンピオンシップで優勝しました。やはりこの偉業は、語られるべきだと僕は感じました。そしていつも思うのですが、事実を描くことはとても大切です。一方で、これは映画です。映画を作るためにはやはり娯楽性がなければいけない、そして観客を引き込む力がなければいけない。もし僕がドキュメンタリーを作るのであれば、全く違った物語を選んでいたことでしょう。先ほどシャシカーントさんが言ったように、この映画は一つの信念と決意を持って頑張った人たちの物語です。そして分が悪いにも関わらず努力して成功する、いわゆる負け犬の物語です。そして映画のプロデューサーとして、ゲットー出身の女性がチャンピオンになったということは人々に知ってもらわなければいけないと感じましたし、僕自身も観たい映画だと思ったんです。僕が映画を作ったり演出したりする場合、それが一つの基準になっています。僕が果たして映画館で観たいかどうか。そういった映画を作って皆さんにご覧頂きたいと思っています。
 
シヴァージーさん:一つ付け加えさせてください。今日はいらっしゃらなくて残念なんですが、なんといってもこの映画は女性の監督が作りました。そのことをぜひ忘れないでいただきたいと思います。女性監督というのはどこでも少ないんです。なんと、ハリウッド映画の中で女性監督の作品ってわずか6%しかないんです。ハリウッドでそうですから、インドではもっと少ないです。タミル語だったらさらに少ないわけで、0.5%しかいないそうです。もちろん、主人公はマディという女性ですけども、やはり女性監督が作ったということも一つの偉業だと僕は思っております。特にこの監督は、実は前作では興行収益が思わしくなかったのです。けれども僕も含めて製作者側は、彼女にもう一度チャンスを与えたいと思いました、今こそ女性監督に映画を撮らせなければいけないと思ったからです。その気持ちに彼女は応えてくれて、この映画も成功して、今や彼女は女性映画人のひとつのアイコンになっています。
 

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