11/2(水)、アジアの未来部門『ケチュンばあちゃん』の上映後、チャン監督、イム・ゴンジュンさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
チャン監督(以下、監督):皆様こんばんは、監督のチャンと申します。よろしくお願いいたします。皆さんの貴重なお時間を割いてこの映画に関心を寄せて頂いて本当にありがとうございます。この映画について気になることや思いの丈など、果敢にいろんな話をしていただけたらと思います。いい時間になればと思います。(日本語で)ありがとうございます。
イム・ゴンジュンさん(以下、イムさん):皆様こんばんは、プロデューサーのイム・ゴンジュンと申します。皆様の貴重な時間を割いて足をお運びいただき、感謝いたします。この映画が皆様にとって貴重な、そして大切な思い出になればいいなと思います。ありがとうございます。
Q:脚本はオリジナルですか?あるいは原作があるのでしょうか。また、この映画を作るきっかけなどがあれば教えてください。
監督:この映画のシナリオは原作があるものではなく、完全にオリジナルです。脚色はしていません。私が韓国のある大学へ講義に行った時、講義を聞いていた弟子の中の1人がこの映画の母体となるトリートメント(シノプシスと脚本の中間にあたる、大筋の要約)を書いてきました。それをベースにして、この映画のシナリオは描かれています。私がその文章を目にした当時、私の愛する母が亡くなって間もない頃でした。ですからこの文章を読んだ時、大きく胸に迫るものがありました。そこで弟子に対し、ぜひこの文章を一緒にシナリオとして開発していきませんかと話をしました。そしてイムプロデューサーにも話を持ちかけたところ、作家を探してきてくれました。私自身も書きましたし、作家のヤン・ソヨンさんと、そしてもう1人、計3人でシナリオを制作しました。
Q:済州島の漁村の生活の映像が非常に美しかったです。舞台を済州島に設定されたのはどういう発想でしたか。またロケハンで苦労されたことがあれば教えてください。
監督:韓国で済州島というと大きな特徴があります。一番代表的なものが、男性よりも女性が社会生活全般を引っ張っているというところです。家庭において家族を養う役割は父親よりも母親の方が大きいという面があります。ですから済州島と聞くと、母なる土地というイメージがあります。実際に済州島で暮らす人たちは、行き過ぎた欲を持つわけでもなく、人に迷惑をかけることもなく…という生活をしています。もし自分の生活が苦しくても、また性格的にはちょっと厳しいところがあるとしても、心根は母のように暖かくすべてを包み込んでくれるような人たちが住んでいる場所です。それは旅行で訪れても感じることのできる気質です。私たちの映画を表現するにあたり、済州島ほど適した場所はないと思い、メイン舞台に決めました。私が個人的に日本で好きな場所は京都と北海道ですが、韓国で言う済州島は日本の北海道に似ている気がします。映像に収める時には、よく知られた観光地よりも、まだ知られていない隠れた美しい場所を探して撮ろうと心がけました。
イムさん:今までに済州島を舞台とした映画やドラマはいくつもありました。きれいな場所を背景としているのですが、実際に作品を観ていると美しい風景を十分表現しきれていないのではないかと思いました。私たちの「ケチュンばあちゃん」ではぜひ済州島の美しさをたっぷりお見せしたいと考えました。チャン監督はもともとミュージックビデオの制作もしていたのでビィジュアルの表現感覚を持ち合わせています。
この映画の撮影は4月末にクランクインしました。実は映画の準備自体は前年の秋には終わっていて撮影を始めようと思えば冬から取り掛かることができたのですが、済州島は春、5月から6月が一番美しいということがわかり、せっかくなら一番美しい時期にということで春まで待ちました。
もう一つ面白いエピソードとしては、私たちは済州島の美しい風景、例えば菜の花、青々とした森、海、それらの美しい風景を十分にこの映画の中で捉えることができたと思っていますが、ただ一つ収めきれないものがありました。それは花の香りです。済州島ではすぐ近くに花が咲いていなくても、どこへ行っても香しい花の香りがするのですが、それだけはさすがに画面に収めることはできませんでした。それだけが心残りです。
Q:ヘジが市場でおばあちゃんとはぐれてしまうシーンで、結局その後に実のお母さんのところにいるというのは、お母さんが連れて行ってしまったという設定なのでしょうか。
監督:シナリオ作業、そして実際の映画を作っていく過程において、直接映像として皆さんにお見せできるものと、直接的な表現をせず観客の皆さんに想像していただく方法があると思います。この映画の中でもすべてを映像として見せてはいません。シナリオ上では、離れて暮らしていた産みの母親はずっと幼いヘジのことを見守ってきたという設定をしていました。実は編集の段階でそれが垣間見える場面がありましたがカットしてあります。ですからヘジと産みの母親との関係は皆さんに色んな想像をしていただいて良いと思っています。
Q:ハンとヘジが森の中で音楽を聴いているシーンで、土の中の箱に大事に絵を入れていました。絵は幼い頃に描いたのでしょうか、またどういうコンセプトのものなのでしょうか。
監督:それは幼い頃に描いたのではなく、ハンという男の子とヘジが仲良くなって描いた絵です。ヘジと言う女の子のことを考えてみますと、自分の大好きな絵を思う存分描いてそれを誰かと共有できる、そんな環境が彼女に有ったのだろうかということを考えてみました。ソウルで暮らしていた時の友達というのが、田舎に行ってからの周りの人たちと、とても良い対比になっているのではないかと思います。済州島で知り合ったハンと言う男の子と友達になって、自分たちの夢や関心のある事を2人で共有するという部分を表現したくてあの絵を入れました。
司会:美術講師役のヤン・イクチュンさんは、これまで演じてこられた役の中で一番良い役ではありませんか?ヤンさんは日本でもよく知られている方で、2年前にはこのアジアの未来部門の審査員を努めていただきました。彼はすごく良い台詞ばかりでしたね。
イムさん:いままでヤン・イクチュンさんは激しい、悪役なども多かったですし、そういう役をやっていた人にどうしてこの映画の中ではこんな良い役をあげるのか?ということで、当初投資をする人たちの間では喧々諤々あったのですが、チャン監督が「そこはやってもらいましょう」と推してくれました。
監督:ヤン・イクチュンさんが今日はいらっしゃらなくて残念です。
イムさん:先程の投資会社が難色を示したという話はヤン・イクチュンには言ってないので、未だに知らずにいます。
監督:ヤン・イクチュンさんが美術講師の役を上手く演じていたと思う方は拍手をお願いします。
(会場から大きな拍手)
監督:この場にはいらっしゃいませんが、ヤン・イクチュンさんに向けて送ってくださった拍手だと受け止めたいと思います。
司会:ぜひお伝えください。
Q:キャストの方がそれぞれ役柄にぴったりと合っていたと思いますが、監督はどういう視点であのキャスティングをされたのでしょうか。
監督:この映画を企画していた当初は有名な俳優は使いたくないと思っていました。物語の登場人物に、リアルに見える人を使いたいと思っていましたが、途中でその考え方を変えました。むしろ、有名だけれども今まで一般の人たちがその俳優に対して思い描いていたイメージとは違うタイプの役柄を演じてもらえば新鮮ですし、イメージががらりと変わって本当にその人物であるかのように観客の皆さんに受け止めてもらえるのではないかと考えました。現実的なところでは、映画製作の予算を確保することにも繋がりました。ですから主役を演じて頂いたユン・ヨジョンさんや、とてもナチュラルな演技をしてくれるキム・ゴウンさんにお願いしてぜひ出てもらおうと考えたわけです。もしこれらの俳優さんがこの映画のシナリオを読んで出ることに合意していなかったら、この映画は作られていなかったかもしれません。ヤン・イクチュンさんが今までと全く違う役を演じていたというお話がありましたが、それと同様に主演クラスの方々も普段あまり演じないような役柄を演じています。例えば済州島の漁夫役ソッコという人物を演じていたキム・ヒウォンさんも、韓国では悪役を演じることが多いのですが、今回はとても善良な漁夫を演じています。