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2016.11.09 [イベントレポート]
「周りが自分をどう思うかなんて、気にせずただ生きるべきなのです。それこそが勇気であり、大胆であるということです。」コンペティション『天才バレエダンサーの皮肉な運命』11/2(水):Q&A

アンナ・マティソン セルゲイ・ベズルコフ

©2016 TIFF

 
11/2(水)、コンペティション『天才バレエダンサーの皮肉な運命』の上映後、アンナ・マティソン監督、セルゲイ・ベズルコフさん(俳優)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
司会:本当に「こんな映画見たことない」というくらい素晴らしい作品を東京に持ってきていただき、ありがとうございます。まずお1人ずつ会場の皆様にご挨拶をお願いします。
 
アンナ・マティソン監督(以下、監督):みなさんこんにちは、会場にお越しいただきありがとうございます。また、司会の矢田部さん、お褒めの言葉を頂きありがとうございます。私は矢田部さんの書かれた本作へのレビューを、Google翻訳を通して拝見したのですが、とても嬉しかったです。私たちの映画は伝統的な映画とは異なるものです。今回、皆さんと一緒に会場で映画を鑑賞することはできなかったのですが、反響が先日の初演のときと同じように素晴らしいものだったことを願っております。
 
セルゲイ・ベズルコフさん(以下、セルゲイさん):私からもまずは日本の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。日本人の皆さんは、映画鑑賞の際にはとてもおとなしいと聞いていたのですが、ここにいる方々は大変熱狂的に鑑賞いただき大変光栄に思います。また私の祖国のロシアの方々も、劇場までお越しいただきましてありがとうございます。
 
Q:主人公のアレクセイが皮肉たっぷりながら、どこか人間らしくかわいらしいキャラクターだと感じたのですが、どのような点に気を付けて演技をされたのでしょうか。
 
セルゲイさん:演じるに当たっては、充分に準備して臨みました。私は普段、舞台俳優をしていますが、かつてモスクワ芸術座の俳優養成学校時代に、授業の中でダンスの練習をしていた程度のバックグラウンドはもっています。それでもダンスは練習に1~2週間くらい費やしました。クラシックバレエの世界では30歳過ぎで引退をされる方が多くいらっしゃいますが、本作でも描かれている現代バレエの分野では、私のような43歳という年齢でも俳優として続けることができます。今回の脚本を書いてくれたアンナ監督のおかげで、このような役を演じることができ大変感謝しています。この映画の中で大事なのはバレエそのものではなく、アレクセイの、真の侍のような性格です。最後のシーンで、アレクセイは自身の死をもって芸術こそが一番大事なものなのだということを伝えました。その結果、彼は勝利を勝ち取りました。
 
(会場拍手)
 
司会:日常生活でもお互いパートナーであるアンナ監督とセルゲイさんですが、監督は本作の中でセルゲイさんの演じるアレクセイをいじわるな性格に仕立てています。そうした内容の脚本を書く作業は楽しみながら進めていたんでしょうか、それとも申し訳ない気持ちだったんでしょうか。
 
セルゲイさん:監督の前に私から一言申し上げたいのですが、アレクセイと私の本来の性格は全く異なります。提示できるような証拠を持ち合わせているわけではありませんが、その点は理解してほしいです。今回の来日では私たちの生まれたばかりの赤ん坊も連れてきているのですが、子供のことも考えて、あえてモスクワのタイムゾーンに合わせて過ごすようにしています。そのせいか寝不足で、もしかしたら時にアレクセイのような性格になってしまっているかもしれません。普段の私は笑顔に満ち溢れていて控えめな性格なのですが、ロシアの方々は私が作品によってマフィアや警察官、詩人といった役を演じていることもあり、様々なイメージをお持ちかと存じます。
 
監督:アレクセイ役にセルゲイのマイナス面を反映させてシナリオにしていく作業はとても楽しかったです。書いている最中は、映画の中のキャラクターがどんな役になっていくのか分からないこともあるのですが、今回は特に自由にシナリオを書くことができたので、とても楽しく作業を進めることができました。
 
Q:画面の構図やカメラワークも素敵だと思いました。かなり大量のシーンを撮影して編集を進められたのではないかと感じたのですが、やむを得ずカットされたシーンや特にお気に入りのシーンがあるようでしたら教えてください。
 
監督:ダンスシーンの撮影は、予算が大きく影響しました。毎分・毎時間と演者の方々へのフィーが発生するので、十分に計算をしなければなりませんでした。しかし本作の予算は非常に限られていたので、撮影に費やせる時間も短く、セルゲイにもかなりの負担をかけたと思います。彼が事前によく練習をして本番の撮影に臨んでくれたことを深く感謝しています。
 
セルゲイさん:私自身、この作品のプロデューサーも務めています。俳優とアーティストという職業は常に話し合い、分かり合えるものだと思っているので、時間がない中で頑張って作ることができました。
 
監督:好きなシーンについてですが、どのシーンも私にとっては大切なシーンです。お答えするのが難しいです。本作をトルストイの偉大な作品と比較するわけではないのですが、彼は「アンナ・カレーニナ」を書いた際に「これ以上、物語を短くすることはできない」と述べました。自分の作品を2~3行で要約することや、気に入った箇所を紹介することが大変難しいという意味では、本作はトルストイの言う「アンナ・カレーニナ」と同じです。
 
司会:とても予算が限られているとは思えないほど、ゴージャスな映画になっているところがこの作品の素晴らしいところです。
 
監督:今のコメントに対して、一言お礼を述べたいと思います。非常に限られた予算の中でこれほどの作品を作り上げることができたのも、何より制作やキャストに関わってくれた皆さまのおかげです。プロデューサーを担当してくれたセルゲイはもちろん、マリインスキー劇場の方々やモスクワ劇場の俳優の皆様のご協力なしには、本作を完成させることはできなかったでしょう。
 
セルゲイさん:私はモスクワ劇場の芸術総監督をしております。ボリショイ劇場という大変有名な劇場を実際に使用した場面があったんですが、スケジュールの大変詰まった中で本作のために舞台を使用させていただいたことに対して深い感謝の言葉を述べたいと思います。またマリインスキー劇場については、同じく芸術総監督のワレリー・ゲルギエフさんがご本人役として登場することに同意してくださいました。このことについても心よりお礼を申し上げたいと思います。
 
Q:アンナさんにお聞きします。正確には覚えていないのですが、作品の中に「何かを成し遂げるためには絶望的なまでに死にもの狂いにならなければならない」「生まれたときから絶望的であるか、もしくは環境が絶望的なものにならないといけない」といったフレーズがあったと記憶しております。私はアンナさんと同世代なのですが、そういった絶望的な瞬間がこれまでにあったということでしょうか。
 
監督:ご質問ありがとうごいます。正しくは「絶望的な状況になる必要がある」というフレーズですね。それぞれの人間にとって、絶望的な状況は異なると思います。逆に言えば、絶望的な状況を味わうために1990年代のロシアを体験しておく必要もありません。たとえそれを体験していなくても、絶望的な状況は人それぞれに訪れるものだと思うからです。また、主人公のアレクセイについて簡単に述べさせていただくと、彼は一言で表すならば天才ですね。天才というのは自分の中に確固たる権威も持っているものです。性格は確かにエゴイストそのもので、自己中心的な振る舞いばかりしますが、天才は常に自分の中に何かしらのルールを持っていて、周りの人々はその才能から湧き出るエネルギーに従わざるを得なくなるものです。天才が発する言葉だからこそ、今回の絶望的な状況を表した言葉も名言として皆さまの心に残ったのではないかと思います。ご質問された内容は私ではなく、この映画の主役であるアレクセイ・テムニコフに向けられるべき質問ではないかと思います。私自身の絶望的な状況に関する質問ですが、子供の養育がそれにあたると思います。子供が生まれたばかりでいろいろ大変なのですが、この点に深入りすると全然違う話題になってしまうと思いますので、回答は以上とさせていただきます。
 
セルゲイさん:アレクセイについて、私からも1つ申し上げたいことがあります。私は撮影中、彼と常に接しているようなものでしたので。その絶望的な状況に関する発言は確か、バスの中のシーンでされたものですが、アレクセイは常に臆病者で、20年間いろいろなことをできたにもかかわらず、何もできませんでした。しかし彼は病気があったからこそ、また何かをしようという気持ちになったわけです。大胆に生きなくてはならない、間違いを繰り返しながらも、それを正しつつ生きなければならないと考えたわけです。臆病者はそのまま臆病者であり続けてもいいのですが、それでも大胆に生きることが重要です。これは非常に教育的な示唆ではないかと思います。
 
監督:アレクセイについて述べるとき、やはり20年前に起きた衝撃的な出来事を欠かすことができません。そのために彼は自分の人生をずっと生きることができず、伸びきったゴムのように、単に存在をしていただけになっていたからです。ただその後、バレエを演出する機会を与えられたことによって彼の人生がようやく再開するわけです。それは明るく志を持った、素晴らしい人生でした。
 
セルゲイさん:アレクセイの臆病性はいわゆる男性的な意味ではなく、皆から笑いものになることを恐れるものでした。けれど私たちも、残念ながら同じように振る舞っている部分があると思います。周りからどう思われるかどうか、他人の目を意識しながら生きていますよね。そして常に頭を下げながら、ごめんなさいと言いながら生きています。「あなたはどうですか」「みなさんはどう思いますか」と、他人の意見を常に聞きながら生きています。それでも、他の人のことを完全に理解するのは不可能です。だからこそ、私たちは周りが自分のことをどう思うか、どう考えるかなんて気にせずただ生きるべきなんです。それこそが勇気であり、大胆であるということです。私の身近には非常に優れた小児科医がいるのですが、彼は私たちの子供の為に一緒に日本に来てくれました。彼はセミナーですべての親に対して、あるアドバイスをしています。「飛行機の中で赤ちゃんが泣き始めたときに、親の皆さんは赤ちゃんが泣いていることで他の乗客がどのように思っているかを気にするかもしれません。しかしそうではなく、自分の子供のことを考えなければならなりません」「他の人たちがどのように思っているかは考えなくてよいのです。あなたが神経質になっていることは、赤ちゃんも敏感に感じ取っています。まず、親は自分自身が落ち着かなければなりません。」
 
司会:非常に貴重なコメントありがとうございました。皆さん盛大な拍手をお願いします。
 
監督:ありがとうございました。
 
セルゲイさん:(日本語で)ありがとう!

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